男気の裏で






 先月3月29日、ここ広島の街は熱血の赤に染められ、怒濤の地鳴りが響いた。米大リーグから8年ぶりに広島東洋カープに復帰した黒田博樹投手の初戦の日である。その初戦に黒田が凱旋勝利した夕方、真赤なユニホームを身にまとったファンの群れは、興奮と歓喜でマツダスタジアムから広島駅へと絶えることなく、新幹線のプラットホームとコンコースまで埋め尽くした。

 この日の指定席は発売日に即完売し、それでも自由席を求めて前日昼から夜を徹してチケットを求める行列ができたという。開幕第3戦であるにもかかわらず、マエケンが投げた開幕初戦よりチケットの即売が早かったという。バリバリの米大リーガー現役選手が20億円とも言われる米大リーグのオファーを蹴って、恩返しの気持ちから古巣復帰したとなれば、カープファンならずともその男気に惚れるところである。

 ただ男気の決断の裏には、黒田投手自身、身を削る苦悩と葛藤があったと推察する。それは、かつては広島東洋カープの守護神と言われた横山竜二投手が退団し、昨オフにアメリカに渡って黒田投手と対談したときの黒田投手の一挙手一投足に感じられるものがあったからである。そのとき彼はヤンキースに残留する気持ちでいた。しかし、かつての球友に心開いてか、本音の一端を漏らした。

 言葉が通じないアメリカに渡って8年、厳しいメジャーの洗礼の中で1球の重みを嫌と言うほど植えつけられたこと。果てしなく遠い遠征による体力消耗。そんな中で、中4日の登板がいかに大変なことか。苦痛という表情が垣間見られた。そして40歳という自身の年齢と将来への不安。そして何より彼は、松井秀樹のメジャーでの末路を身近に見てきた。野球人生がそう長くないことを彼は十分に自覚し、だからこその男気の決断に至ったものと思う。

 どうせなら最後は居心地がいい環境で終わらせたい、どうせなら惜しまれて、また感謝されて終わりたい、それに恩を報うことができればなおいい。野球人ならずとも、そう考えるのは人の常。現役の最後をどう迎えるか、人生の最後をどう生きるかは人それぞれであろうが、こういう生き方も素直な生き方だと素朴に思う。ただの男気としてだけでは語れない、人の生き方の何なのかを教えられた一件である。どのような終わり方にしろ、最後は味のある男の背中を見せたいものである。



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No title

赤毛の巨漢は
そばで見たら
恐竜だろう
あんなの相手に
よくやったよ

Re: No title

rippleさん、
春の雨です。
満開の今年の桜もこれで終わりですね。

> 赤毛の巨漢は
> 恐竜だろう

rippleさんらしい表現。
そんなの相手によく戦争をしたものです。


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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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