深奥幽玄





 真冬のこの時季、マンションの北に面した私の部屋から外を眺めると、山からの吹き降ろしの寒風が樹木に絡まった枯葉を舞い上げ、寒々とした真冬の原風景が広がる。ところが、一歩自分の部屋を出て南側の瀬戸内海に面したリビングに行くと、雲の隙間からパーッと陽が差し込み、煌々とした日差しが部屋中に広がり、まるで真夏と錯覚してしまうほどである。テーブルの上に眼を転じると、埃のひとつひとつさえも見えるのである。

 北に面した私の部屋も、南に面したリビングも、同じ冬に違いはない。テーブルの上の埃だって、陽が差してできたものじゃない。同じ季節であっても、見る方角によって見える風景が違う。まして自然環境が変われば、見えるものと見えないものが逆転することもある。さらに見る側の心のありようによっても、見えるものと見えないものがあり、見えるものも感じ方が大きく違ってくる。

 我々は、今見えているものが正で、今感じているものが正だと思っている節がある。しかし、それは大きな勘違いである。今我々が見えているものはほんのひと握りであり、見えていないものの方がその何百倍も、あるいは何万倍もあるであろう。今我々が感じているのは、単にごく限られた見えているものからの評価に過ぎない。昔、ミリが最小単位であったものが、マイクロ、ナノの世界が普通になり、さらにピコやフエムトと、可視単位は無限に小さくなるであろう。

 それでは、今、現実に見えているものに対して、我々はどのような立ち位置にあればいいのか。まず、今見えているものは、置かれた環境下で自身の視力で見えているほんのひと握りに過ぎないという認識が必要であろう。その上で、今見えているものが楽しく好意的で前向きなものであえば、それはそれで素直に受けとめればいい。それ以上に見えないものを見ようとする努力は無意味である。逆に、今見えているものが鬱陶しいものであったり、悲惨なものであったりした場合は、今見えているものはほんのひと握りであることを自身に言い聞かせ、見えていない多くのものに期待し、あるいは希望を見出すようにしよう。

 科学が進歩し、人間関係が複雑になり、自然が破壊されるにつれて、今まで見えなかったものが次第に見えてくる。しかし見えることがいつも幸せに繋がるとは限らない。見えないで済むことがしあわせであることも多い。それに、深奥幽玄(しんのうゆうげん)という言葉があるように、見えないものを見ようといくらあがいて努力しても、奥が深く、結局のところ、我々は真理に到達しないのだと思う。

 名もない道端の一輪の花を見て、美しいと感じ、可憐だと感じる人は、なんとも感じない人より少なくともしあわせだと思う。今、見えているものに最大限の癒しや安らぎを見出すことが、今できる最大限のしあわせなのだろう。そして、今が良けりゃ、見ない勇気、詮索しない勇気も必要かも知れない。真冬のマンションで思った老人の戯言である。




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No title

geotechiさん

ご無沙汰しています。
お元気そで安心しています。

マンションからの風景広島も雪で寒いようですね
南からの光は真夏のようなんですね

厳島神社の風景を想像しています。
素敵な生活を楽しんいるようですね

Re: No title

みのりさん、
こんにちは。

こちらこそご無沙汰してます。

> 厳島神社の風景を想像しています。

対岸の厳島も白く雪景色の日もあります。
住めば都、住んでるところが
一番落ち着きます。

そうですね

花を見て美しいと感じられるのは幸せです。

本当に辛い時、花を認識することもない。

色鮮やかな花も周りのすべてのものも目に入らない。

でも人間は再生できると信じている。

Re: そうですね

マリーさん
こんにちは。
まだまだ寒い毎日ですね。

> 本当に辛い時、花を認識することもない。

確かに、言い得てます。
花を愛でる幸せを大切にしないといけませんね。

> でも人間は再生できると信じている。

そう願う気持ちはわかります。
生きている間は再生可能ですが、
死は無です。

No title

ものは
表から見て
裏から見て
横から見て
全体が見える

「群盲像を評す」になりがちですね。

Re: No title

rippleさん
こんばんは。
あくまでも五行歌ですね。

> 「群盲像を評す」になりがちですね。

ほう、そういうことですね。
群盲象を評す(ぐんもうぞうをひょうす、群盲評象)。
群盲象をなでる(群盲撫象)など、いろんな言い方をしますね。


No title

こんばんは。
geoさんもrippleさんも
さすが難しい言葉をご存知です。
私は最初 深奥幽玄って山奥のお蕎麦屋さんか何かかと思いました。
これに庵を付けたら仙人のようなお爺さんがやっている
蕎麦屋の様ではありませんか?
いろんな見解があっても深くは考えず今を享受しようって事でしょうかね。
いや、山奥の蕎麦屋なんて言っている人は深く考えたほうがいい?
考えた方がいい人は考えず、考えない方がいい人は深く考える。
世の中 なかなか上手くは行きませんね~。

Re: No title

チカちゃん、
遅い時間のコメ、ありがとうう。

> 蕎麦屋の様ではありませんか?

まあ、蕎麦屋の話のようなものです。

> 世の中 なかなか上手くは行きませんね~。

そうね、中でも人間関係が超、難しいね。
男女以上に、男通し、女通しがね。
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