青春の淡い恋






 最近の朝日新聞の数々の失態に辟易している私は、もう我慢できなくて、いっそのこと購読をやめてやろうと思い立った。けれど、社会人になってから40年以上も購読し続けている朝日を断ち切るのは、悪妻といえども離縁できないでいる心境とどこか似ていて、哀れみの情から断腸の思いでいる。

 そんな朝日が、だらだらと綴る「こころ」から小気味好い「三四郎」へと連載を変えた。懐かしい「三四郎」を見てて、その冒頭に、列車で偶然に出会わせた女が出てくる。東京までの旅の途中、三四郎はその女の誘いで宿をともにすることになる。ひとつ部屋で一夜をともに過ごすことになるが、なにもなくて、明け方、女に「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言われる。・・・・・・・・・あっ、これが青春なんだと、遥か昔の己の青春を思い出した。

 あれは大学3年生のときだった。大学選抜で私は四国愛媛の別子鉱山に研修に赴くことになる。全国の大学からの推薦選抜者は私以外すべて旧帝大だったので、負けるものかと意気込んで乗り込んだ。新居浜駅にさっそうと降り立ち、駅前から市内電車に乗り変えた。すると、隣合わせに歳の頃なら30代と思しき女性が座っていた。

 すっとした目鼻立ちの和服姿の女性である。もうそれだけで心臓が鳴ったが、女性からの「学生さんですか?」の問いかけで話がはずんだ。「いつまでご滞在ですか?」「研修だとお休みはないのでしょ」などと。2週間の予定であったが途中の日曜日が休みだと伝えると、女は「そんじゃ、家においでんか」と言い、手持ちの籐籠からさっと紙切れと鉛筆を出し、行き方をメモして渡してくれた。「この停留所ですよっ」と言い残して、途中で女性は降り立った。

 研修の最初の1週間は有頂天に過ぎた。そして、いよいよ決行の日曜日。まだ匂いが残っていそうなメモを片手に、恐る恐る女性の家を訪ねる。古めかしい一軒屋の引き戸をトントンと叩くと、女性が出てきて、近所の手前からか、素早く中に招き入れた。

 家中をぐるりと見渡すも、だれかと一緒に住んでいる気配がない。そこでご馳走をよばれた。いろんな学生生活の話をしたと思うが、それ以外はあまり記憶にない。ただ、なにもなかったことだけは覚えている。果たして、女は昼飯をご馳走するだけで私を招いたのか。あるいは「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と思われたのか。今となっては、淡い青春の思い出である。




三四郎
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

正に青春の思ひ出〜♪

geotechさま。
ご訪問 コメントありがとうございます!!
過去記事も拝読させて頂きましたが いつもながら
鋭く 人間観察あり はっきりと意見も書かれ
又 ユーモアあり、そして卓越した文章力素晴らしいです♪

青春時代 青の時代 その所以がわかるようです。
>「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言われる
うふふ・・・ですが あれこれ考えるからね〜〜(意味深?)
でもあの当時の女性にしては 勇気 度胸あり過ぎ〜の女性かな。
まぁ、酷い目に遭われなくてようございました(爆)
男も女も 「観る目」養わなくっちゃね♪
いつも有り難うございます。

皆それぞれに、青春の思い出が・・・

geotechさん こんにちは

>今となっては、淡い青春の思い出である。

正にその通りで、貴重な、大切な思い出ですよネ・・・
皆それぞれに、いろいろと青春の思い出がありますもの・・・
私も、何もなかった思い出の情景もブログに書いてます(2012年7月1
0日、社会通念の変化)、回想録では、恋の思いは書きたい事のトップですから・・・

皆、人柄、状況、場面等の総合判断で対処するのでしょうネ・・・

Re: 正に青春の思ひ出〜♪

ミー子さま
溜読みご苦労様でした。

>いつもながら・・・・・

頭、ポリポリ。

> うふふ・・・ですが あれこれ考えるからね〜〜(意味深?)

いまだったら、どういう行動に出るか、
な~んちゃって考えなくても、
今だったら、ありえない話です

> まぁ、酷い目に遭われなくてようございました(爆)

酷い目なのか、良い思いなのか、
わかりませぬぞ。

Re: 皆それぞれに、青春の思い出が・・・

chisokuさん
こんばんは。

> 私も、何もなかった思い出の情景もブログに書いてます(2012年7月1
> 0日、社会通念の変化)、

そうですか。過去記事を探してみてみますね。

No title

geoさん
こんばんは~
私もミー子さんと同じように感じましたよ~
行きずりの若者にメモを渡すなんて
すいぶんと積極的な女性じゃないですか~?
それほど好み?いい男だった~?(過去形じゃマズイかww)
geoさんの武勇伝は一晩飲み明かしたくらいじゃ足らないっすね。
この~この~モテおとこ~~(@_@)

Re: No title

チカさん
おはようございます。
昨日の冷たい雨から一転
青空の快晴です

> すいぶんと積極的な女性じゃないですか~?

伊予は積極的な方が多いという印象です。
土佐もそうですが。

> geoさんの武勇伝は一晩飲み明かしたくらいじゃ足らないっすね。

残念ながら失態だらけです。
とても武勇な話はありません。
修羅場話だったらいくらでも。

No title

この前「三四郎」の朗読をネットの音声でぜんぶ聴きました。
電車のなかで遭った女性と同じ部屋に寝る場面はやはり
胸がときめきましたよ。息がつまりそうになりました。
なんにもなかったからいい小説になったのだと思います。
漱石さんに本当はどうだったのか尋ねたい気もします。(^-^)


Re: No title

rippleさん
こんにちは

> この前「三四郎」の朗読をネットの音声でぜんぶ聴きました。

朗読を聞くのもいいですね。
朗読者が良ければなおのこと。

> 漱石さんに本当はどうだったのか尋ねたい気もします。(^-^)

ほんとほんと。
怪しい気もします。

No title

お昼御飯という名の据え膳だったんですね~~

それをホントに御飯だけ食べて帰った。

嗚呼、青い春。

Re: No title

ミルフィーユさん
こんにちは
ひと雨ごとに秋が深まってますね。

> それをホントに御飯だけ食べて帰った。

もったいないことです。
今だったらガツガツですが、
そういうこともすっかりなくなりました。
嗚呼、淡い青春の日々よ
戻ってこい。

No title

ご無沙汰しています。

広島で災害がありましたが
大丈夫でしたか?

すぐに二十日市市のことを思い出しました。

朝日新聞 我が家でも読んでいます。

青春

ジオさんにも若い頃があったのですね。

その時代に、住所のメモを渡すなんて積極的な女性ですね。
そちらの方に驚きました!!
それだけジオさんに、魅力あったのでしょうか?
私は、この歳になってもそんな勇気ないですよ。

何もなくて良かったですね (男性に変かも知れませんが)
火傷しないで淡い恋で終わった・・・
思い出は深く美しく、とっといて下さい。

Re: No title

みのりさん、
こちらこそご無沙汰です。
お元気そうですね。
いつも読み逃げしてます。

> 大丈夫でしたか?

お陰様で。
地質屋が災害じゃ、
洒落にならないでしょ。

これからも美しい写真を
見せてくださいね。

Re: 青春

まこさん、
こんばんは。

> ジオさんにも若い頃があったのですね。

あら、失礼しちゃうね、
おいらにも青春ありました。

> 私は、この歳になってもそんな勇気ないですよ。

いえいえ、その歌唱力はそのまま
男性への勇気あるアピールですぞ。

No title

夜と昼の違いだけで、状況は三四郎と
似ていますね。
女性は積極的にモーションをかけてきたのに
据え膳を喰わずして、お別れとは・・・
縁がなかったといえば、それまでですけど。
でも良く考えれば、当時のgeoさんは学生、お相手は
30代となると、残念ながら先行きは見えていますね。
何もなくて正解だったと思います。

Re: No title

トパーズさん
連読、ありがとうございます。

> 女性は積極的にモーションをかけてきたのに
> 据え膳を喰わずして、お別れとは・・・

はぁ~、今思えばもったいない。
でも、それが青春なのでしょうね。

> 何もなくて正解だったと思います。

はい。
でも、その後もいろいろありましたけど。
プロフィール

geotech

Author:geotech
geotechのブログへようこそ!

団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
blogram投票ボタン
フリーエリア
シニア・ナビ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR