老いの品格




 義母に先立たれて3年になる義父は、住み慣れた田舎の家を放置したまま息子夫婦に引き取られる形で息子夫婦と同じマンション棟の別部屋で暮らしている。最初の1年間は、最愛の妻を亡くした絶望感と寂しさで哀毀骨立(あいきこつりつ)の状態であった。遠く離れた娘たちにめそめそと長電話を繰り返し、それはそれは悲しくて堪らない様子がみてとれ、毎日の長電話も致し方ないことだと周囲は思った。

 しかし、その長電話は2年経っても3年過ぎても変わりなく続いた。ただ話の内容は、妻を亡くした寂しい思いから昔話へと変わった。昔話の多くは自身の自慢話であり、同じ内容を何度も何度も繰り返した。最初の頃、受ける側は「その話は何度も聞いた」と、まともに答えていたが、そのうち、携帯を耳と肩で挟んで家事をするようになった。そうでもしないと、1時間でも2時間でも何も手がつけられないからだ。それでもときどき「ふん、ふん」と相槌しないと、「聞いているのか」と怒ったりするようである。電話は相手の都合に関係なく、早朝だったり夕食時だったりする。私なんぞは、なんとも女々しいそんな姿に腹立たしささえ感じるようになった。

 その後義父は、師範に近い腕前を活かしてと書道教室に通うも、元来が人付き合いが苦手なこともあって仲間と反りが合わずに退会した。やがてデイサービスに通うようになると、少しだけ元気を取り戻してきたようだ。お陰で、昼間の長電話がなくなって、やれやれと安堵する。

 義父は校長や教頭の地位を棒に振って小学校の先生を勤め上げただけあって、思想的な信念が強い。ただ厄介なことに、その思想的意見をことごとく周囲に披露するので皆に嫌がられる。今通うデイサービスでは「先生、先生」と呼ばれると、そのことをまたこちらに自慢げに話をする。元先生であることを言わなきゃいいがと思っていたら、どうやら自身で吹聴したようだ。そりゃ、先生と自身が呼ばせているようなものだ。

 義父はデイサービスで昼食を摂るものの、朝食と夕食、デイサービスが休みの日の3食は同じマンションに住む息子の嫁が毎回部屋に届ける。食事を届けるとまた同じ内容の長話に付き合わされる。こんな生活が3年も続いて、ついに最近、息子の嫁は心身困憊してノイローゼ気味になったらしい。それで介護施設に入所してもらおうと息子が説得するが、入るのは嫌だとまた娘に長電話する。

 他の老人からすれば義父は恵まれていると思う。お金に苦労する訳でもないし、3度3度の食事の心配もいらない。米寿を越しても体が不自由なことはない。娘に長電話しても嫌がられず、ときどきはご機嫌伺いに参上してもらっている。父の日や誕生日、歳の節目にはちゃんと祝ってもらっている。それなのにと思うことしきりである。

 義父を責めるつもりはない。ただ反面教師として私自身に教訓を与える。歳をとって女々しいのはみっともない。できるだけ自身で生活し、できるだけ周囲の手を煩わすまい。自慢話をしないように心がけよう。老人にふさわしい品格を持ちたい。そして、淡々とつつましく、しかし希望をもった老後を生きたい。つまり、歳を重なるということはそれなりの覚悟が必要なのだと、義父をみて思うのである。





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賛同します。
一般論として、残された男は情けないものです。
小生も、毅然と生きたいと願っております。

Re: 拍手

呑兵衛あなさま
こんにちは。
大阪に出張してました。

> 一般論として、残された男は情けないものです。

残された男はしょんぼりと、
残された女ははつらつと、
男女の違いが明瞭ですね。
男の方が実は実直でまじめで
寂しがりやで弱いのでしょう。

No title

長文の文読ませて頂きました。
しっかりした思いがあって読者の方にも受け入れやすい
言葉で表現されているので、参考にもなりましたし、
今後も良いブログをアップ楽しみにしています。

TJサポートデスク 三島

Re: No title

TJサポート デスク 三島さま
はじめまして。
ようこそ「きよしのつぶやき」へ。
今後ともよろしく。

No title

ご無沙汰しております。
お元気そうで何よりです(^^)
記事拝読し 義父(享年103才)の介護を思い出し 頷きながら・・・
義父も元教師 最後は校長を何年もした人です
良い面も多くありましたが まず人に頭を下げる事がない!
「してもらって当たり前田のクラッカー」あはは〜〜!!
義父母の介護 そして今 実家の父95才(ボケが進んでます)
ミー子は 人生勉強していると思っています。
やがては自分の往く道、せいぜい可愛く年取りたいと思うけどね(笑)
いつも有り難うございます。

Re: No title

ミー子さま
こちらこそご無沙汰しております。
いつも素晴らしいポエムと写真を
ありがとうございます。

> 記事拝読し 義父(享年103才)の介護を思い出し 頷きながら・・・

あっ、そうでしたね。

> 義父も元教師 最後は校長を何年もした人です
> 良い面も多くありましたが まず人に頭を下げる事がない!

さもありなん。ふむふむ、納得。

> 「してもらって当たり前田のクラッカー」あはは〜〜!!

あっはっは。らしい。

> そして今 実家の父95才(ボケが進んでます)
> ミー子は 人生勉強していると思っています。

そう思うところが偉い!
そういう人に限って誰にも世話に
なりたくないって思うものですね。
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