残業代ゼロの波紋






 ベルトコンベアーで流れる製品を組み立てるなどの職種は、労働時間が賃金査定のすべてである。しかし、職種によっては裁量勤務や成果主義が勤務の実態と適合するものも多い。職種によって地域によって、その人にとっての最適な勤務形態を選択できるよう、バラエティーある勤務の仕組みがあるのが理想である。

 政府の産業競争力会議が労働時間にかかわらず賃金が一定な働き方を一般社員に広げることを検討するしたとたん、新聞の見出しには「残業代ゼロ」の文字だけが一面に躍る。対象者は年収1千万円以上の高収入の社員、高収入でなくとも労働組合との合意で認められた社員であり、無論、本人の同意が前提であるという条件が、雲隠れしてしまうほどに。

 そもそも、すべての労働者は、労働時間が短く少しでも高い賃金を求めるのだと考えること自体が間違いである。賃金以上にやりがいを重視する労働者だっているし、休日を返上してでもできるだけ長時間働いて高い賃金を得たいと思う労働者もいる。限定した地域に定住して自由な時間だけ働きたいと思う者もいるし、時間ではなく成果で賃金査定して欲しいと願う人もいる。勤労者の勤務条件と報酬に対する考えは千差万別である。

 サラリーマン時代を通じて、私は残業代をもらった経験がない。入社してすぐにスト破りした組合幹部に愛想をつかして組合を脱退し、そのうちすぐに管理職に就いたからだ。それからしばらくして、組合との折衝によって会社は裁量労働と年俸制度に移行した。もう35年も前の話である。その頃から既に会社にタイムカードはなく、残業という概念はなく、朝何時に出社してもいいフレックスタイムやこの時間は社内拘束というコアタイムを導入していた。年俸は1年に1回、自己申告に基づいて協議し、どうしても折り合いがつかない場合は退社してもらった。プロ野球選手と同じ扱いだ。

 会社が早くからそういう制度に踏み切ったのは、残業が存在することによる不公平と不平等の弊害をなくすためだ。早い話、できる社員は時間内に仕事をこなし残業がつかない。できない社員は時間内にこなせないから残業がつく。できる社員は家に帰っても勉強するから資質が向上し、さらに効率的に仕事をこなす。できない社員は家に帰っても勉強しないから、いつまでたっても進歩がなく益々残業が増える。これではまるで正当な報酬とは逆転の現象だということを、会社も社員も気づいたからだ。

 そもそも、会社が年俸制に踏み込むことができなくて残業のしがらみから脱することができない元凶は、昭和22年に制定された古い古い労働基準法にある。そしてこの労働基準法を楯に、会社と相対して要求するのが労働組合である。果たして、労働組合というのはほうとうに必要なものなのか。会社の発展の阻害にこそなって無益なものではないだろうか。

 社員と会社の関係について、常々思うところがある。会社にとって、社員は最も貴重な人的資源であることに間違いない。従って、社員および家族の生命を維持し、暮らしぶりを向上させることこそ会社の使命であり、またそのことが会社の発展に繋がる。しかし、会社経営が危ういときに、春闘だのボーナスだのと要求するとはどういうことか。会社あっての社員ではないのか。会社がなくなれば、ベースアップやボーナスどころの話ではないだろう。

 私は入社してすぐに組合を脱退して経営者側の席から労使交渉に臨んだ。しかし、私は組合員以上に組合的な考え方だったと思う。今から思うと、労働組合は経営者と相対する組織という因習に囚われ、形式的な要求をしていたように思う。真に社員と家族の生活を守るという視点が欠如していたように思う。支店の住所変更に伴う社員の引越し費用を本社に求めたのは、組合ではなく管理職の私の提案であった。社員の通勤費の是正を本社に求めたのも、組合ではなく管理職の私であった。

 組合とは、仮にその存在価値があるとすれば、社員の権利保全のために、社員の家族の暮らし振りの向上のために、会社の経営事情を理解した上で会社と一体となって考えるものでなくてはいけないと思う。ただただ自分たちの要求だけを求める労働組合があるとすれば、それこそが会社の元凶といえる。労働組合のあり方、とくに連合会のあり方に一石を投ずるものである。





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No title

こんばんは!

業種は全く違いますが、私も残業代を貰った期間は短かったです。
若くして、残業代が付かない身分になりました。
優等生ではありませんでしたが、たまたまのことです。

商社でしたので、長く会社にいたからとて、成績が伸びるわけではありません。
頑張れば、賞与に反映されると信じていました。

その後、年俸に変わり、賞与の楽しみもなくなりました。

その間、総務の仕事も経験しました。
総務は、従業員に対するサービス業と信じています。
労働組合がない会社でしたので、従業員の待遇改善に微力ながら尽力した自負があります。

geotechさんと違うタイプの人間と思っていましたが、飲兵衛以外にも、共通点があるようですね。

Re: No title

吾喰楽さん、
おはようございます。
出張してました。

> 若くして、残業代が付かない身分になりました。
> 優等生ではありませんでしたが、たまたまのことです。

管理職ですね。
それに吾喰楽さんは営業畑でしょ。
しかも商社の。
あこがれですね。
でも、苦労が多いんでしょうね。

> その間、総務の仕事も経験しました。

総務の仕事もされたのですか。
またまた大変。
縁の下の○○ですね。

> geotechさんと違うタイプの人間と思っていましたが、飲兵衛以外にも、共通点があるようですね。

あっは。のん兵衛という共通点だけでも
共感あって結構ですよ。
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