ほんとうの優しさとは




 私が2歳になる手前、父が亡くなる直前であった。6歳年上の姉が茶箪笥の上にあった50銭を勝手に持ち出した。家の前に来ていた紙芝居に使ったという。父がクジラ尺でこっぴどく姉を叩いていたのを記憶する。「盗人のはじまりだ!」とか何とか、父がわめいていたような気がする。今、姉と会うたびに、あれで性根を入れられたと姉は言う。父亡きあとの人生において、いくら貧乏しても人様に後指さされるようなことだけはしなくて生きてこれたと、姉は今でも父への感謝を忘れない。

 そういった幼い頃の記憶もあってか、自分の子にも、しかと教育せなばとの思いがあった。子供がまだ小さい頃から成人になる頃まで、私は子育てのことでよく同居人と言い争いをした。悪いことは悪いとしっかり叱るべしとの私の考えと、あくまでも優しく接すれば必ず立ち直るという同居人との意見の齟齬(そご)であった。うるさいカミナリ親父と仏の同居人、どちらに子供たちが寄り添うのか明白であった。しかし幸いにも、子供たちは大きくなってから、カミナリ親父は必要であったと述懐し、ひどいと思ったあのひと言で実は救われたなどと言ってくれる。果たしてどちらの育て方が正しかったのか、子供たちの行く末を見届けるまではわからない。ただ言えることは、今どきの若い夫婦の大半は子を溺愛し、仏にも勝る優しい親であろうことに間違いない。

 話は変わって、学校でのいじめの問題である。連日のように、いじめによる児童の自殺が後を絶たない。先日も、名古屋でいじめによると思われる生徒の自殺が報ぜられた。いじめがあったのかどうかとか、アンケートをとるとか、朝の会で先生が自殺をそそのかす発言をしたとかしないとか、右往左往、揺れている。しかしどうみても、いじめがあったことは明白である。また、朝の会である生徒が「〇〇君は今日自殺するそうです」と発言したことも事実のようだ。そもそも、そのような発言が学校であること自体が異常であるが、もっと驚愕するのは、その発言に対して先生が何も対処していないどころか自殺を煽る発言をしているらしいことである。いじめ以前に学級現場は既に崩壊している。

 いじめはなければ良いに決まっている。しかし、なぜ自殺までするのか全く理解できない。死ねと言われたから自殺するというのか。「死ね」「ウザい」「キモい」という言葉は生徒の間で日常的に使われているという。そうした悪しき習慣が良くないことは誰しもわかっている。また、冗談であっても、そうした言葉が相手をどれだけ傷つけることかについてもわかっている。しかし、日常的に使われているそんな汚い言葉のひとつひとつに、なぜ命を犠牲にしてまで、まともに反応するのか。

 元先生で教育評論家の尾木氏は自殺した生徒のことを、「自分だけ責める優しい子」と評する。優しい子?それはちょっと違うだろうと思う。自分だけ責めるのは、廻りに話しても解決できないと自身が勝ってに決め付けているだけであり、親にも優しいのであれば少し想像力さえあれば自殺できる筈がない。優しいとすれば、自分自身に優しいのか。それに、仮に優しい子であったとしても、死んだら負けであり、終わりである。社会はこうして「優しい」という言葉で処理するのか。

 昔からいじめはあった。私も学校でいじめにあった。殴る蹴るの暴行にもあった。先輩や先生に相談すると、やられっぱなしなのかと逆に檄を飛ばされた。他国籍の複数人から待ち伏せにもあった。その都度、如何にいじめから逃れるのか真剣に考えた。腕力で負けるとすれば頭を使えばいい。それでもだめなら逃げればいい。究極は、そんな学校に行かなければいい。

 親は子供を叱ることなく、逆にご機嫌を伺う。学校の教師は生徒を叱ることもできない。近所の子供を叱る大人もいなくなった。親も学校も社会も子供を吹き出物にでも触るように扱う。そして、何か問題が生じると事なかれ主義に走り、事の本質から逃げて穏便にすませようとする。一体、いつからこの国は柔(ヤワ)になったのか。学校の先生と生徒、家庭の親と子、社会構造までも病んでいるのではないのか。

 子を慈しむほんとうの優しさとは、ただただ叱らず黙っていることなのか。生徒を本気で指導する優しさとは、いじめを見て見ぬ振りをすることなのか。道路に飛び出たわが子が車に引かれそうになったとき、「飛び出しちゃ駄目でしょ!」と咄嗟にわが子を叱らないのか。それとも、そんな場面でも、よかったねと、ただただ優しくするだけなのか。わが子を、わが生徒を真剣に思うがあまりの、強い優しさ、頑固な優しさ、厳しい優しさもあっていいのではないか。それが、ほんとうの優しさではないだろうか。








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No title

geotechさん

2歳の頃にお父様が
亡くなられたようですね!

働きながら 大学まで出られたようですね~♪
本当に苦労されたんですね!

いじめ問題 最近は自殺者まで
出ていますね!

困った問題です。?!

私も転向して いじめにあいましたが
強い意志が身に付いたような気がします。

*私も小学1年の時に父が病気で亡くなり
ました。

No title

私は、「獅子の子落とし」の教育方針が
理に適っているように思っています。
日本は、いつの間にか平和ぼけしてしまい
情けない若者が多くなりました。
これからの厳しい時代を生き抜くのであれば、
可愛い我が子へ、敢えて幾多の試練を与える、
親の覚悟も必要だと思います。

Re: No title

みのりさん、
こんにちは。
毎日暑いですね。

> 私も転向して いじめにあいましたが
> 強い意志が身に付いたような気がします。

そうなんですか。
そんで強くなったのなら良かったですね。

> *私も小学1年の時に父が病気で亡くなり
> ました。

そりゃ、お母さんご苦労されたことでしょうね。

Re: No title

トパーズさん、
こんにちは。
日本は連日の猛暑です。
そちらはいかがでしょうか?

> 私は、「獅子の子落とし」の教育方針が
> 理に適っているように思っています。

実は「獅子の子落とし」
知らなかったです。
調べてみてわかりました。
「可愛い子には旅をさせる」みたいなことですね。
「親の甘いは子に毒薬」とも。

> 日本は、いつの間にか平和ぼけしてしまい
> 情けない若者が多くなりました。

ほんと、そう思います。
甘ったるいことしてたら
某国に乗っ取られます。
この世は、すべて競争社会だと思います。

私の・・

末息子は、中三の時に教師の不用意な言葉で十二支腸潰瘍を起こし、食が取れなくなり死に瀕しました。(難病のためストレスに弱い)

 私は「学校に行かなくてよい!」と言い、休ませました。
彼は高校には進みましたが・・また、行かなくなり六年間明るくひきこもりましたが、今は元気に働いています。
何が大事なのかよく考えることですね。

Re: 私の・・

dorucasuさん、
こんにちは。

この問題はデリケートで
シリアスな問題なので、
誰しもコメントし難いかと思います。
そこをコメントしていただいて
ありがとうございます。
それも、ご子息のそういう問題を
抱えてなおコメントしていただいて
心痛みます。

究極、親がそんな学校なんて
行かなくていいって言えるかどうか、
親の子を思う本気度が試されていると
思いますが、どうでしょうか。

修羅場の選択ですね。
人の生き方の問題にも関係しますが。
また、ご教授ください。

No title

きびしすぎても
あまやかしすぎても
あぶない
+と-があって
あかりが灯る

Re: No title

rippleさん、
こんにちは。
毎日、暑いですねぇ。

rippleさんらしい
明快なご回答。
いつもながら、
考え方の中庸性には
感心しています。
どちらかというと、
私なんぞは偏屈な考え方なもんで、
うらやましく思います。

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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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