巻頭言

 この寄稿は、日本でも歴史的に古い山口地学会の50周年を記念した特集号の巻頭言を依頼されて投稿したものです。私の現在の仕事への思いと郷里への思いを感じていただければ幸いです。



巻頭言     「今こそ山(現場)に行こう」

 山口地学会に席をおきながら、活発な活動を横目に何のお手伝いもしないできた小生にこの記念すべき特集号に顔を出す資格はないものと心得ているが、西村名誉会長に後押しされて恥をしのんで筆を執った次第です。最大手のコンサルを長年勤めた後に零細コンサルを営みながら50の手習いで大学デビューした私の波乱に富む経歴から、ユニークな発言を求めているものと好意的に解釈し、山口大学および山口地学会の益々の発展に期待して雑感として記すことにした。以下は老犬の遠吠えと一笑に付していただきたい。

 最近、地質コンサルタントとしてさまざまな仕事をするたびに、現場(実際・実態)と理論(解析・基準・既成の枠組み)の狭間でいたたまれない矛盾を強く感じることが多い。その原因の多くは、問題の解決に立ちはだかる既成の枠組み、問題解決のために必要な人と情報のネットワークの不備、現場とデスクワークのかい離などである。このうち、既成の枠組みやネットワークの不備について言及すれば構造改革など政治的な話に発展するので遠慮するが、地質技術者としては現場とデスクワークのかい離という現象は最も気がかりな問題である。以下、斜面問題を例に話を進める。

 コンピューター解析が十分に普及した今日、有限要素法(FEM)をはじめとして各種の数値解析により斜面の安定問題を解くことが可能になった。近い将来においては、実際の土および岩の変形・強度・浸透特性を再現した3次元の数値解析により厳密解が得られるものと期待される。しかし一方で、日常の斜面安定問題において地表地質踏査を積算に組み入れられることは少なく、地質屋も次第に踏査をしないで斜面問題に取り組むことに不自然さを感じなくなり、さらに、最も重要なカテゴリーである地質を抜きに数値解析を進めようとする場合が多い。

 こうした現場とデスクワークのかい離は斜面問題に限らず、多くの建設現場において見られるが、その基本的根源は、現場を重視しない傾向(風潮)に起因しているように思われる。昨今の論文や報告を見聞きするに、洗練された文章や高度な解析結果が盛り込まれ、CGを駆使するなどアカデミックで華麗な論文・報告がある反面、実際の現場の生き生きとした泥臭い匂いが感じられないものが多い。まさに、この事実が現場とデスクワークのかい離を象徴している。

 地質学がお金を稼ぐ道具として世にデビューしたのは地下鉄銀座線の地質断面図作成だと、故・陶山國男氏(応用地質㈱初代社長)から聞いたことがあるが、それから半世紀もの間、多くの先輩たちが地質学の普及と地質屋の地位向上に苦労されてきて今日がある。しかしながら、地質学がグローバルかつ緻密で最も基本的な調査手法の基礎であること、建設において地質屋の情報は必要不可欠であることなどがほんとうに理解されているだろうか。また、地質屋は社会においてほんとうに重宝がられて応分の報酬をいただいているだろうかと考えるに、否定せざるを得ない。それどころか、前述した現場とデスクワークのかい離の中で地質学そのものが埋没しかかっているという危機さえ感じる。

 地質屋は一般に無口で一人よがりで、宣伝が下手で要領が悪く、社会性がないという不名誉な定説から脱却し、これからは地質屋各々が勇気をもって地質学を世に普及し、勇気をもって自己主張しなければならない世の中となっている。そして地質学が単なる学問としてではなく世のために役立つということを事細かに説明する責務もあろう。

 山口地学会におけるこれまでの地道な努力はまさに地質学の原点でもあるが、さらに地方におけるメジャーな会として発展していくためにも、上述した趣旨のもとに勇気ある行動と継続性を期待する。ここに集う技術者および研究者は、今こそ、現場・実際主義に立ち帰ろう。今こそ、山(現場・地質)に帰ろう。そして地質屋の気概を山口から世に発信したいものである。


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