姉を見舞う




 郷里の姉が心臓と肺を患って12月下旬から入院している。そのことは事前に知らされていた。でもそれはとりあえず検査入院だということで、高をくくっていた。しかし、検査入院で終わらず、そのまま長期の本入院となってしまった。姉は私より6歳年上の70歳。姉と兄と末っ子の私と3人兄弟だけど、何かにつけて姉と私は気が合う。

 見舞いに行かなくてはと気を揉むものの、忙しくてなかなか行けない日々が続いた。たまたま山口出張があって、その時にお見舞いすることを事前に知らせていた。出張当日の夜は大学の先生と会食があり、その前に大学病院に見舞うことにした。

 個室に横たわる姉は、30kgのか細い体にいろいろなチューブを差し込まれていた。排便も自力でままならない状態であった。腕を見ると、点滴注射針や採血の跡でうっ血し、真っ黒に焦げていた。しかし、姉は案外に元気であった。こざっぱりして顔色も良い。来る看護師、看護師に「これが私の弟よ」と、いかにも自慢の弟を紹介するような物言いをする。看護師の「弟さん、男前ですね」というリップサービスにも、姉は誇らしげな顔をしてみせた。

 後で、姉の連れや看護師に聞いた話だと、私が来る前々日までは塞いで元気がなかったが、前日に「体を洗ってくれ」、「洗髪してくれ」と願い出たらしい。そして、お見舞い当日、姉の唇にはうっすらと口紅が施されていた。今まで見たことのない美しい姉の顔であった。思い出すと、私の母もそうであった。私が行くというと、洗髪して薄化粧して身構えたという。

 その日、姉は饒舌であった。「兄弟で辛抱したから、ここまでやってこれたのよ」「辛抱だったら他の誰にも負けないわよね」といった、幼少時代からの貧困を跳ね飛ばしてきた人生劇場を鼓舞するような言葉を連発した。それでなくても酸素を吸う力がないのに、おしゃべりすると、益々、酸素が欠乏するよと、傍で看護師が気を揉むほどであった。

 思えば、ちょうど今の姉の歳に母が亡くなった。同じように肺が原因だった。そして考えてみれば、私が2歳で姉が8歳のときに亡くなった父も結核性の肺病であったと聞く。姉はそのことに拘った。母と同じ歳に逝くのかと。

 案外に元気そうな姉を見舞って、あくる日、帰路の運転をしていたところ、突然、義兄から電話があった。様態が急変したと。「今。どこらへんを走っているのか」と、いかにも病院に戻ってきて欲しいと言いたげな不安な口調であった。すぐさま、とんぼ返りをした。

 昨日のため口をたたく姉と全く違う、憔悴した姉がベッドでうずくまっていた。自身で酸素を吸入する力がなくなったので即、集中治療室に入れるという。最悪の事態を想定した医師の説明を聞く。

 昨日、私が見舞っておしゃべりしたのが良くなかったのかとも思う。でも。あの姉の笑顔を思い出すと、やはり見舞いに来て良かったのだと自分に言い聞かす。あれが最後の姉の姿にならないことだけを、今は祈るばかりである。




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おはようございます

ジオさん~おはようございます。
涙でブログを拝見しました。
病気や別れは、人の力ではどうにもならないこと。
ならば、せめて最後まで人として与えられた寿命を全うしたい!

お姉さまはジオさんに会えて、本当に嬉しかったのでしょうね。
きっと病気を忘れるほどだったのでしょう。
集中治療室から戻れるように、回復されるといいですね。
私も祈っています。

No title

お早う御座います。

ご心配ですね。
姉上様のご回復を、心からお祈り致します。

お見舞いに行って良かったんです。
姉上様も、心から喜ばれたと思いますよ。

亡母も、私が見舞い(遊び)に行くと、前日とは別人のように元気になったそうです。
自宅療養でしたが、それまで寝たきりだったのが、短時間ですが居間に起きてきたのです。

No title

ジオさん

お姉さまはままならない闘病生活の中
最愛のジオさんに会えた喜びが、ひと時の活力に
なられたんでしょう。
お互いの切ない気持ちが伝わってきます。

お姉さまのご回復お祈りします。

Re: おはようございます

まこさん、
こんにちは。
一日一日、
わずかばかりではありますが、
春を感じる今日この頃です。

> 病気や別れは、人の力ではどうにもならないこと。
> ならば、せめて最後まで人として与えられた寿命を全うしたい!

全うしたい思いは誰しもありますね。
それがままならないのがこの世でしょうか。

> お姉さまはジオさんに会えて、本当に嬉しかったのでしょうね。
> きっと病気を忘れるほどだったのでしょう。

病は気から。
一瞬、元気になることってあるんですね。
あとは姉の治癒力に賭けるのみです。

Re: No title

吾喰楽さん、
こんにちは。
毎日、夕食の献立に迷ったら、
ブログを見て参考にさせていただいてます。
それにしても、マメですね~。

> お見舞いに行って良かったんです。

そう思うようにします。
ありがとうございます。

> 亡母も、私が見舞い(遊び)に行くと、前日とは別人のように元気になったそうです。
> 自宅療養でしたが、それまで寝たきりだったのが、短時間ですが居間に起きてきたのです。

やはりそうですか。いくつになっても女なんですね。
息子にだけは元気な姿をみせたいのでしょう。

Re: No title

greenさん、
こんにちは。

> 最愛のジオさんに会えた喜びが、ひと時の活力に
> なられたんでしょう。
> お互いの切ない気持ちが伝わってきます。

姉と弟、この歳になっても戦友なのです。
ともに人生の苦渋をなめた。

> お姉さまのご回復お祈りします。

ありがとうございます。
greenさんも風邪や肺炎を患わないようにお気をつけて。

No title

geotechさん、おはようございます。
私にはお姉さまの気持ちよく分かります。
私にも2人の弟と妹が1人います。
1人の弟は1年前まで転勤で、北海道に住んでいました。
今は大阪にいるだけで安心です(笑)
きっとお姉さまもジオさんのお顔見て、すごく嬉しかったと思います。
やはり医学や色んな事が発達しても人間の血の繋がりや情には勝てないのではないでしょうか?と私は思います。
お姉さまが回復されます事を心からお祈りしています。
そして又何度かジオさんがお見舞いに行かれる事を望んでいます。

Re: No title

neneさん、
おはようございます。
コメントありがとうございます。

> 私にも2人の弟と妹が1人います。
> 1人の弟は1年前まで転勤で、北海道に住んでいました。
> 今は大阪にいるだけで安心です(笑)

そうですか。
さぞ、頼りがいのある姉上でしょうこと。

> やはり医学や色んな事が発達しても人間の血の繋がりや情には勝てないのではないでしょうか?と私は思います。

血の繋がりは強いと思うときと、はかないと思うときもあります。
強くするのも、はかなくするのも本人次第だと。

> そして又何度かジオさんがお見舞いに行かれる事を望んでいます。

ありがとうございます。
そうします。

お見舞い申し上げます。

ジオさん
最愛のお姉さまのご容態、案じております。
いつかは誰しも永遠の別れが来ますけれど
まだまだお若いです。

つかのま、自慢の弟をみなに披露できて
お姉さまは嬉しかったでしょう。

どうか、少しでも楽に治療が受けられますように。
願わくば、家に戻れることを祈っております。

お見舞い申し上げます

geoさん
お疲れ様です。
お姉さんといい時間を過ごされましたね。
私に もし弟がいたならやはりきちんとして会いたいと願うでしょう。
体力を消耗しても一つ願いが叶ったこと 嬉しかったと思います。
どうか また二人ゆっくり話せる時が来ますように。

Re: お見舞い申し上げます。

しあわわせさがしさん、
こんばんは、
初志貫徹、いろいろと
活躍のご様子と想像しています。

> 願わくば、家に戻れることを祈っております。

できれば、私のよすがのもとで
今一度再生させたいと願ってます。

Re: お見舞い申し上げます

チカさん、
こんばんは。
コメント、いただいて嬉しいです。

> 私に もし弟がいたならやはりきちんとして会いたいと願うでしょう。
> 体力を消耗しても一つ願いが叶ったこと 嬉しかったと思います。

そっか、そういうものですかね?
女ごころと男ごころ、
その機微が兄弟でいろいろあるのでしょう。
自慢の弟として違いないよう、頑張ります。

No title

いまでは70歳はまだ若いほうに入りますね。
しかし、病はこちらのつごうを考えずに襲ってくる。
お見舞いにいって、いろいろお話しができてよかったですね。
ちょっと疲れたのかもしれませんが、嬉しかったことでしょう。

こんなとき死を話題にするのは不謹慎かもしれませんが、
私はいま平穏死というのに興味を持っております。
ある程度以上は延命治療をおこなわないという考えです。
みんな枯れるようにとかぽっくり行きたいというのに、
それがかなわない。へんな話です。

お大事に

ジオさん、お姉さんにお会い出来て、また喜んで下さって良かったですね。
70歳はまだまだ若いです。
心から、お見舞い申し上げます。
ドジを踏んでしまい、ちょっと右手を怪我してしまいましたので、今
左手で打っていますが、不便この上ないですね。
少しブログを休みますが、大切なお姉様、くれぐれもお大事に。

すばらしい時間

おねぇさん、楽しみに待たれていたんですね。
おしゃべり出来たこと、
絶対に 

    良い時間を持たれた

と確信します。
話したい事がいっぱい溢れだしてきた様子が目に浮かびました。
遠方から来る弟への身繕いをされるなんて
素敵な女性ですね。
オトコマエの弟さんに、美人のおねぇさんを想像します(*^_^*)

・・・

僕の一番上の姉は75歳
2,3年前から軽い認知症だ
僕が行くと、昔から知っているいつもの姉だ
認知症など微塵も感じられない
が、普段は違うらしい・・・子供の話では

我が家も酷い貧乏所帯だった
3人の姉と兄は相当苦労したらしい
ま、母が一番辛かっただろう
腎臓病で人生の半分は寝ていたとの話。
僕が知っている母は元気な働き者だった

みなが社会人になり、これから楽が出来るという時に
母は53歳で亡くなった

兄、姉、母、父・・・いろいろな事が頭に浮かびますね
ジオさん、僕らはまだ・・・もう少し元気でいようね

Re: No title

rippleさん、こんにちは。
相模も少しは春めいてきましたか?

> しかし、病はこちらのつごうを考えずに襲ってくる。

こればっかりは、ね。

> 私はいま平穏死というのに興味を持っております。
> ある程度以上は延命治療をおこなわないという考えです。

私もそう思いますが、
万に一でもと思うのも人の常。
難しいテーマですね。

Re: お大事に

ミルフィーユさん、
こんにちは。
お見舞い、ありがとうございます。

> ドジを踏んでしまい、ちょっと右手を怪我してしまいましたので、今
> 左手で打っていますが、不便この上ないですね。

えっ、どうされましたか?
包丁で切ったとか?
右利きだったのですね。
不自由でしょう。
なのにコメントいただきありがとう。
ブログの再開、楽しみにしてます。
お大事に。

Re: すばらしい時間

みかんさん、
こんにちは。
ウオーキング、快調ですね。

> 絶対に良い時間を持たれた
> と確信します。

ええ、そう思いたいです。
ありがとう。

> 話したい事がいっぱい溢れだしてきた様子が目に浮かびました。
> 遠方から来る弟への身繕いをされるなんて
> 素敵な女性ですね。

溢れ出すの表現、そのままです。
いくつになっても女なのですね。
私にとっても自慢の姉です。

Re: ・・・

ブルさん、
こんちは。

> 僕の一番上の姉は75歳
> 2,3年前から軽い認知症だ
> 僕が行くと、昔から知っているいつもの姉だ
> 認知症など微塵も感じられない
> が、普段は違うらしい・・・子供の話では

やはりそうですか?
おんなじですね。

> 我が家も酷い貧乏所帯だった・・・・・
> 兄、姉、母、父・・・いろいろな事が頭に浮かびますね

いろいろな話、ありがとう。
似たもの同志ですね。

> ジオさん、僕らはまだ・・・もう少し元気でいようね

ええ、元気でいましょ。
またお会いできるように。

No title

久しぶりの弟との再会を楽しみになさっていらしたお姉さまの
はしゃいだ様子が、文面から察せられ、その後を読むのが、
切ないブログでした。
お姉さまのご快復、こころよりお祈りしております。

お見舞い申します

geotechさん  ご無沙汰しました。

兄弟姉妹の関係は歳重ねるほど思い深くなるものです。
geotechさんの心境がブログからいっぱい伝わってきました。
お姉さんの回復祈ります。

Re: No title

トパーズさん、こんにちは。

少しずつではありますが、
春の予感を感じさせる今日この頃です。
NYはいかがでしょう?

> はしゃいだ様子が、文面から察せられ、その後を読むのが、
> 切ないブログでした。

実に切ない。
自分でもそう思います。
でも、とりあえず姉にあんなに喜んでもらって良かったです。
みなさんにお見舞いいただき、
回復してもらわねけりゃ、
バチが当たりますね。
ありがとう。

Re: お見舞い申します

奈良の与作さん、
こちらこそご無沙汰しています。
シニア無精でなかなか徘徊できずにいます。
その後、体の調子はいかがでしょうか?

> 兄弟姉妹の関係は歳重ねるほど思い深くなるものです。

血は濃いともいい、血は汚いともいいます。
せめて兄弟、仲良くしていきたいものです。

> お姉さんの回復祈ります。

ありがとうございます。
与作さんも元気で過ごされるように。
プロフィール

geotech

Author:geotech
geotechのブログへようこそ!

団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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