引退の美学



 人には長い人生の中でいろいろな節目に引き際というものがある。男にとっての引き際の最大のイベントは現役引退かも知れない。定年制のサラリーマンのように自分の意思と無関係に現役引退を余儀なくされる場合は仕方ないが、そうでない場合、いつ引退するのか、それは男の人間性や人生観に関わってくる。

 最近の引退劇で印象的なのは松井秀喜である。引退会見において、なぜ日本球界に戻らないのかと問われた彼は、ファンは10年前の松井を期待しそれを裏切ることになるからと答えていた。それほどファンは馬鹿じゃない。野球を知る者であれば10年前の松井はもうこの世にいないことを承知している。それでも日本球界に戻ってきて欲しいと思うのがファンであろう。

 日本の野球プレーヤーで一番金持ちは誰かと尋ねたら、野球界を知る人間は異口同音に松井秀喜の名をあげるだろう。無論、大リーガーでの年俸が破格だったのだが、名を推薦する人の気持ちには皮肉が込められている。彼は飲みもしないし大勢で食べもしない。若い者や仲間に奢ることもないらしい。つまりお金を使わないからだと言いたげであった。つるんで飲むことや食べることがすべて良いとは言わない。ただ彼の社交性のなさが孤立を招き選手生命を短くしたことも事実である。

 さらに彼は、巨人とヤンキースに最後まで拘ったと明言している。しかしそれでは最後にプレーした大リーグのアスレチックやレイズに失礼というものではなかろうか。大リーグで彼を雇う球団はなかったが、日本球界は彼を誘った。しかし彼はそれを断った。そしてその理由が前述の内容である。ほんとうにそうであろうか。日本球界でもプレーする自信がないのであればそれを素直に述べればいい。でなければ、格好いい自身を守りたかったのか。いずれにしても彼の会見には素直な気持ちが伝わってこなかった。ほんとうに彼は野球が好きだったのであろうかとも思えてくる。

 対照的に、29年間の現役野球人生を達成した工藤公康。多くの球団を渡り歩いて、それでもどこか拾ってくれと懇願した。それまでした彼の言い分は、ただただ野球がしたかったのだと。往年の工藤選手を知るものからすると、スピードもなく上手くかわすピッチング姿には寂寥感すら漂った。しかし彼はプライドや誇りをかなぐり捨てて最後まで投げ通した。

 サッカー界においても、ヨーロッパでの活路の道を閉ざされた中田英寿は直後に何をしたか。私には偽善の世界旅行に逃避したとしか思えないのである。彼もまた松井と同じくチームの中で常に孤立していた。それに引きかえ、私はゴン中山やカズにエールを送りたい。名誉やプライドをかなぐり捨ててまで、サッカーがしたいという気持ちが伝わってくるのである。とくにカズはフットサルまで参加した。喩としては適切ではないかも知れぬが、大リーガープレーヤーにソフトボールをしろと言うようなもの。そのような真似は松井にはできないであろう。

 同じ理由で、トリノオリンピックで金メダルを取った直後に引退した荒川静香も嫌いだ。要するに、彼らに共通しているのは引き際が格好良すぎるし、計算高いのである。もっとできるだろう。もっとやれよと言いたい。

 人の引き際はひとそれぞれであり、他人が文句言う筋合いでないことは重々承知している。ただその上で、私だったら体力のある限り燃焼しつくしたいと思う。野球が本当に好きな工藤公康と同じように、サッカーが本当に好きなゴン中山と同じように、私も今の仕事が好きで好きでたまらないからである。





スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

geotechさん

明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。

*松井の引退は残念です。

Re: No title

みのりさん、
こんにちは。
今年もよろしく!

> *松井の引退は残念です。

はい、そういう人は多いでしょうね。
少しひねくれ者ですので勘弁してくださいね。

引退の時期

geoさんのご意見、なぁるほどぉ。 
でも、私は、やっぱり華のある内に引退するのが正解だと思う。
例えば歌手を例にとると、往年のアイドルが、懐かしのメロディーで
自分のヒット曲を歌うのを時折見かけますが、見るに耐えない。
老醜を晒して、声量のない声で歌う姿は惨めです。
そういう意味で、山口百恵は頂点にいた時に潔く引退。
芸能界へ復帰しないのも偉かったと思うんですけどね。

生き方の美学

カズのフットサルは私も驚きました。
もっとカッコつけしいの人かと思ってましたから。
同じように、工藤も意外でした。
デビュー当時の彼はもっとチャランポランの男かと思ってましたから。

野球でいえばもう1人、野茂の名も挙げたい。
ぼろぼろになっても、燃焼するまでやり尽くす。凄いと思います。

人の生き方って長いスパンではじめて見えてくるものがありますね。
私には到底できないけれど、壮絶な心根に惹かれます。

男の美学

拍手有難うございました。

 1晩、男の美学について考えました。

 人それぞれであると言う結論に達しました。
 
 私はどちらかと言うと頂点を極めた人ほど良い思い出のままで居て欲しい。責任のない単なるフワン心理ですね。

Re: 引退の時期

トパーズさん、
こんばんは。
 
> でも、私は、やっぱり華のある内に引退するのが正解だと思う。

華のある人はいいでしょう。
華のない人はどうでしょ。

> そういう意味で、山口百恵は頂点にいた時に潔く引退。

別格ですね。
彼女のすばらしいところは、
その後一度も顔をださない潔さです。
荒川静香さんなんか、エキシビジョンやショーに
出たり司会したり、華で終えて高値で仕事
しているから嫌なんです。

そういう意味で、松井は今後、チャラチャラ
出てきてほしくないですね。

何をもって華というのかも、
また人によって価値観が違いますが。

Re: 生き方の美学

夏の葉さん、
本年もよろしく!

> カズのフットサルは私も驚きました。
> もっとカッコつけしいの人かと思ってましたから。

私もです。かっこしいかと思いきや
案外でした。

> デビュー当時の彼はもっとチャランポランの男かと思ってましたから。

彼の野球に対する考え方や情熱はすばらしいです。
将来、きっと名監督になるのではと期待してます。

> 野球でいえばもう1人、野茂の名も挙げたい。
> ぼろぼろになっても、燃焼するまでやり尽くす。凄いと思います。

そう、野茂も凄いですね。
野茂は松井以上に大リーグで活躍したといっていいでしょう。
野茂と松井の生き方が対照的なのです。
それが美学の違いだと思います。

Re: 男の美学

真樹さん、
こんばんは。

>  1晩、男の美学について考えました。

えっ、一晩も考えるような内容じゃないんですが・・・

>  人それぞれであると言う結論に達しました。

もちろん、人それぞれですね。

>  私はどちらかと言うと頂点を極めた人ほど良い思い出のままで居て欲しい。責任のない単なるフワン心理ですね。

頂点を極めたと思うこと自体が思い上がりだと私は思います。
頂点とは単なる体力や技術ではなく、奥深い考え方ではないでしょうか。

No title

引退の美学・・・人それぞれですねぇ。

計算ずくでやっている人も確かに感じます。
本人の希望もさることながら親の意向も大きく
反映されているでしょうね。
これからが長くて本当の人生です。
悔いなく生きて欲しいですね。

Re: No title

こんにちは。
日常の生活になってますか?

> 計算ずくでやっている人も確かに感じます。
> 本人の希望もさることながら親の意向も大きく

計算ずくの人、嫌いです。
いい歳して親の意向というのも情けないですね。
私には華がないのでとことんやるのみです(笑)。

プロフィール

geotech

Author:geotech
geotechのブログへようこそ!

団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
blogram投票ボタン
フリーエリア
シニア・ナビ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR