物作りの様変わりに思う


 仕事柄、地質図を作る。現場に行って露頭のスケッチを野帳に描く。地層や断層・節理の方向を計測して地形図に書き留める。ここまでの地道な作業は今も昔も同じ。しかし、ここからの作業が今と昔で大違い。

 昔だったら、といっても20数年前までの話であるが、現場で書き留めたものに上から墨入れをする。クーラーのない部屋で、汗ばんだ腕や手で汚れたペーパーの地形図と格闘しながら、数日かけて地質図の元図をこしらえる。

 片手にスコッチウイスキー、片手に墨入れのロットリングたまにパイプタバコという出で立ちが地質屋のステータスであった。出張の宿であれば、明け方まで若いものと喧々諤々、地質論議から人生論議まで戦わせながら作ったものだ。

 作られた元図をトレース屋に渡す。トレース屋はマイラー原図を上から透かせて丹念にトレースしていく。タイトル文字はトレース屋の好みで、イタリアン調や相撲文字風のものまで独特の作品が描かれる。できあがった原図をもとに必要枚数の青焼きを注文し、それに色鉛筆で色を塗る。色塗りには近所の主婦連中をアルバイトに雇って、広いテーブルの上で数日間かけて仕上げる。色鉛筆で塗られた地質図は、何とも言い難い味のある作品となる。

 一枚の地質図はこうして多くの人々によってバトンされて、ようやく完成の日の目を見たものだ。その過程にはいろいろなトラブルや失敗があり、人間ドラマがある。できあがった作品は、まさに多くの人の汗と笑いの結晶であった。

 やがてコンピューターの発達によってアナログ世界からデジタル世界へ。地質図はAuto cadを使ってパソコン上で作られるようになった。ペーパー相手ではなくモニター相手となる。ペーパー上の頃合いの表現や微妙な表現が難しい。ハッチング(色塗り)もsolidでムラなく美しくできる。タイトルは明朝かゴシックに、文字も線の大きさも線種もISOで決められた規格どおりに。

 こうしてパソコンで作られた作品は、すべてがムラなく統一的に、効率的に作られる。しかし、すべてが画一的で無味乾燥の作品でもある。出来上がった作品に、いつも「違うんだなぁ」とつぶやく。

 時代の流れといえば、仕方がない。しかし、いつも何か物足りなさを感じている。効率的で見栄えがいいが、人間味がない。そこにドラマも哲学もない。これでいいのか。

 時代に逆行し、今のやり方に反旗をかざしても勝ち目はない。しかし、どこかで抵抗したい気持ちを持ち続ける。どこかで自分を表現したいと思っている。どこか人間臭さを出すことはできないのか、虎視眈々と狙う。この時代であってこそ、味わいと人間らしさを少しだけでも表現したい、そんな思いでいる。

 時代の変遷に伴って物作りが様変わりした。それも一瞬のうちに一変した。今、事務所には使われることのない色鉛筆、写真フィルム、OHP機、トレース台などが寂しく眠っている。物作りの様変わりに伴って、人の生き方も問われているようである。私は昔の人間で良かったと思う。この時代に人生の終盤を迎えて良かったとも思う。なぜだか寂しく、人間ドラマがあった物作りの時代を郷愁する日々である。




色鉛筆



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なるほど

多くの人の手を経て完成した地質図は、やり遂げた達成感があったでしょう。
OHP機器、懐かしいです。
今は出番がほとんど無いのでしょうか?
時代の移り変わりを感じます。

それにしても、昔の地質図ってこんなに手間がかかったのですね。




No title

>すべてが画一的で無味乾燥の作品でもある。

わたしが関わっていた仕事もまったく同じパターンを経て
そのようになりました。
時代を感じました。
人間が一から創造して作り上げる・・・
この醍醐味が失われ寂しさを感じましたよ。

Re: なるほど

まこさん、
京都の旅に紅葉ドライブと
お元気そうですね。

> OHP機器、懐かしいです。

これ、学会にも持って行ったのですが、
今ではプロジェクターで
Power Point
になりました。
実際、PowerPointの方が便利なんですが、
OHPの間の間隔、何ともいえない時間で
良かったです。

> それにしても、昔の地質図ってこんなに手間がかかったのですね。

その手間のうら舞台に妙があったのです。

Re: No title

しあわせさがしさん、
おばんどす。

> わたしが関わっていた仕事もまったく同じパターンを経て
> そのようになりました。

そうでしたか、貴女もそのように。

> 人間が一から創造して作り上げる・・・
> この醍醐味が失われ寂しさを感じましたよ。

だから今、興味あるのは職人の技です。
大工、瓦職人、左官、その他の技の職人に
敬服すると同時に、国として育てる政策が必要です。

No title

おはようございます。

同世代は、同じ思いですね。
今では、何でもコンピューター
少し抵抗したい気持ち、同感です。

gioさんとはレベルが大違いですが
職場での案内名札や連絡事項の張り出し等を筆で手書きしてます。
味があっていいという言葉を心地よく聞いています。

それに昔、アルバイトで
区画整理の街の設計図を絵の具で色分けしていた記憶があります。
すべて、出来上がりが違ってました。
懐かしいです。

でも、こんな事を思うのは、老化じゃないですか?



Re: No title

かをるさん、
ご無沙汰してます。
といっても、ブログは読み逃げしてます。

> 今では、何でもコンピューター

PCは文具だから仕方ないんですが、
何でも頼るところが気に入らないです。

> 職場での案内名札や連絡事項の張り出し等を筆で手書きしてます。
> 味があっていいという言葉を心地よく聞いています。

それそれ、やはり手書きですよ。
手書きは心、生きてますから相手に伝わります。

> 区画整理の街の設計図を絵の具で色分けしていた記憶があります。
> すべて、出来上がりが違ってました。

味わいありますよね。

> でも、こんな事を思うのは、老化じゃないですか?

はい、老化しているのも事実です。

No title

古代人と違って
われわれは今
なにひとつ
自分でつくれない
感謝するしかない

Re: No title

rippleさん、こんにちは。
コメありがとう。

> 自分でつくれない
> 感謝するしかない

そうですね。
感謝あるのみですね。

No title

はじめまして。シニアナビから来ました。
そうですね。物作りの醍醐味の部分が失われるのは寂しいし、
職人技として残して置きたい物ですよね。
きっと、今後は手先の不器用な人間ばかりが育っていくのでしょうね。
手作りの温か味がなつかしいですよね。
我が家の場合、どんなに時代が進んでも変われない分野なので幸せなのかも・・・・・。
(船の帆等、永遠のものだし、特殊機械のカバーとか手作りする以外ないしで・・・・・)

Re: No title

きらりさん、
はじめまして。
シニアナビでは存じ上げてます。

> 我が家の場合、どんなに時代が進んでも変われない分野なので幸せなのかも・・・・・。
> (船の帆等、永遠のものだし、特殊機械のカバーとか手作りする以外ないしで・・・・・)

そうでしたか。
それは良い天職をお持ちですね。
一番のしあわせかも知れません。

今後ともよろしく。
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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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