『「その、あなた」でよい』
郵便受けによく、宗教関係の冊子が投函されてある。無宗教無信心者の吾が輩には関係ないと、いつもはその場で捨てる。もしくは、見慣れない冊子の場合はしばらく玄関先に放っておく。なぜなら、後で宗教関係者が来て「見られましたか?見てなければ返却ください」と言われでもしたら大変だから。
昨日も見慣れた冊子が投函してあった。すぐに捨てようと思ったが、玄関先に置き忘れた。ところがその冊子を、日頃、新聞も本も読むことのない間近な者が真剣に読んでいた。読書嫌いな者を読ませる冊子には、一体、何が書いてあるのか。冊子の内容に変に感銘して、その世界に入りでもしたらヤバイと思った。
それで、冊子の中身を私が検閲することにした。『「その、あなた」でよい』は冊子のタイトルであり、著者は某有名宗教団体の、名が広く知れた創始者である。その中身を見ると、心にほころびを持つ者には、なるほどと思わせる内容である。しかし、方々に神や仏が散りばめられて、誘(いざな)う雰囲気が満載である。そのまま信奉されては困ると思い、神と仏から離脱した私の言葉によって編集し直し、それを代わりに読むように与えた。以下はその要約である。
第1章『「その、あなた」でよい』(吾は吾、わが道を生きる)
他の人々の存在を肯定するなら、
自分自身の存在も肯定しなさい。
「その、あなた」でよいのです。
あなたは、あなたの生き方をすればいいのです。
第2章『私もまんざら捨てたものではない』(自分を信じて生きる)
苦しみや悲しみのさなかにあるとき、
人は自己否定的になりがちです。
そうすると、ますます苦しい。
そんなときはむしろ、もっとさばけた目で
自分自身を見つめることが大切です。
「私もまんざら捨てたものではない」と。
それは、過信でもうぬぼれでもなく、自信です。
水辺から飛び立つ水鳥は、羽毛の表面にある油で水を弾く。
自信はその油です。
どのような不幸が訪れても、自信という油があれば、
心の奥底に引き込まれなくて済みます。
第3章『力を磨き、自分を大切に』(前向きに生きる)
与えられた不幸を負とばかり捉えず
前向きに考えられるように、
常々、自分の力を磨いて、自分を大切にしよう。
「肉親の死によって、私はいっそう強くなれる」
「友人が離れて、私にはまた別の素晴らしい人と出会える」
このように、前向きに考えることが大切です。
第4章『感謝の気持ちを持とう』(感謝の心がわが身を救う)
この世の万物に感謝の気持ちを抱けば、
そこから教訓が得られる。
自分は一見、不幸なようでも、
それは大きな時間の流れの中では、たいしたことではないと。
自分はいかに大きな愛を与えられているか、
自分はいかに恵まれているか、
そのように思えてくるのです。
編集してみて思った。宗教冊子は無論、宗教への誘いを目的とする。だからして、表現方法などが一種、独特である。しかし、中身の本質は人生訓であることに違いはない。この冊子が言いたい人生訓は以下のように要約できる。
今、身の回りに起きていることを、あれこれと神経質に考えずに、ゆっくりとした時間の流れの中のひとつの事象と捉えれば、また別の展開が開ける。私は私でいいのだ、仮に間違いがあっても、どうということないのだ、また良いこともあるさ。そう考えるだけで楽になれる。「降り止まぬ雨はない」、「明けぬ夜はない」、「悪いことも良いことも長続きはしない」大きな時間の流れに任せて生きると楽なもの。感謝する気持ち、自分を磨く努力を大切にしながら。悪い自分探しをするのではなく、自分の中にある良い子を信じて。
まあ、こんなところです。ただひとつ確かなことは、救世主になれるのは神でも仏でもない。この私をおいて誰もいないということです。
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