費用対リスク


 命はお金にはかえられないとはいうが、逆にお金がなければ命を救えないこともある。難病をかかえた子どもの命を救えるのは、募金で集めた大金で手術できる限られた人であったり。重篤な病の命を救えるのは、名医を選べるお金持ちであったり。しかるに、そのお金には限度というものがある。だからして、持ち合わせたお金の許容範囲の中で効果的に運用せざるを得ないのが実情である。それは家庭においても、国家においてもまた同じである。

 例えば、道路沿いに落石しそうな岩塊があったとき、対策工事をするのかしないのかを考えてみよう。落石によるリスクを回避するために、対策工事をした方がいいに決まっている。しかし予算には限度があるので、工事の必要性と優先順位、対策工事の種類などは割り切って費用面から算出根拠を出さざるを得ない。

 落石を生じた場合の人身事故の確率を、その道路の通行量(1日何台通るか)から算出する。その結果、何も対策を講じないで落石による人身事故を招いた場合の費用(人の命など)と対策工事費を比較して、前者が後者を上回るならば、対策を行う。こういう考え方は「信頼性設計」と称され、もう30年も前から定着した土木におけるひとつの考え方である。一見、人の命をお金に換算して冷酷なようだが、限りある予算の効率的運用を計れば、結局のところこうなる。

 どこから対策するかという優先順位の考え方も同様である。同じ規模の落石のリスクがある場合でも、1日数万台も通過する高速道路が優先され、1日数台しか通らない村道が後回しにされるのは、当然といえば当然である。そこには、限られた費用でどの程度のリスクが回避されるのかという「費用対リスク」および「費用対効果」の考え方がある。

 さて、北朝鮮の衛星だかミサイルだかの発射に備えて、PAC3を沖縄にまで配備するという。ミサイルの落下地点はフィリピン近海であり、石垣島の上空を軌道するという。軌道範囲は海上であり、そこに仮に破片が落ちて人身事故を招く確率を出せば、天文学的数字となろう。一方、PAC3を沖縄へ配備する費用や万一、迎撃した場合の費用の合計は半端な額ではない(正確にはどこも発表していないが)。それでも配備するのか。

 最近、突如として出現した南海トラフの地震活動に関する問題。東海、南海、東南海が仮に3連動した場合の津波の高さを示しているが、これが途方もなく大きい。想定外を想定したという津波の高さは地域によっては20mを越す。東海、南海、東南海のどれかが発生する確率もさることながら、それらが3連動する確率とは、これまた天文学的数字になりはしないか。3.11以降、既に各自治体では防潮堤の工事に入っている。10mの防潮堤を20mに変更するには、単純に10m嵩上げすれば済むというものではなく、基礎からすべて作り直さないといけない。すなわち、今まで作ったものや作っている防波堤はすべて無駄になる。

 地震予知連絡協議会がどのような趣旨で発表したかわからないが、発表するからには確率を明記しなければなるまい。100年に1度程度なのか1000年に1度程度なのか。それすらもわからなくて、万が一という寓話に導かれて現実の対策に走るというのか。

 瓦礫の処理に関しては汚染の拡散という問題もさることながら、周知のとおり、廃棄物企業や運搬企業などの利権と政治が絡む。いずれにしても、瓦礫の処理は地元で処理した方がどんなにか安くあがる。250億円とも300億円とも言われる瓦礫処理費用を地元で処理すれば、子育て支援などすぐに解決できる。

 日本に捨てるほど財力があれば別である。命を賭けてまで消費増税しなければならないという日本の財政難である。この現実の下において、なぜこうもいとも簡単に思慮なき出費をするのか、理解に苦しむ。リスクに対する対価は、リスクの実情と確率などを検証しなくてはならない。それに、リスクに対する防御は何もお金を使えばいいというものでもない。要するに、知恵と工夫が足りないのである。

 改めて申し上げあげる。3.11とフクシマ原発事故は決して想定外ではない。想定内の検証せずして、想定外を想定しても意味はない。





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No title

業界は違うところで仕事をしていますが、
この4月からますます、公的は介護保険はまた使い辛くなりました。

土木建築は票と直結なとこがあって、バラまくんですかね?
介護でちょこまか削るよりよっぽど、ここ考えてお金を使って欲しいものです。

No title

cost-benifite analysis、ハーバード白熱教室のマイケル・サンデル
教授の授業を思い出しました。ベンサムの功利主義、最大多数の
最大幸福など。多数決でものを決めてゆくなかで少数の意見をどう
取り入れていくかが民主主義のいのち。いずれにしても、一筋縄
ではいきませんね。個人的には北欧の福祉国家が理想ですが、
日本は日本の独自のやりかたがあってもいいように思います。
それにしても赤字国債が膨大すぎて、気が遠くなりますわ。

Re: No title

みかんさん、こんばんは。

> この4月からますます、公的は介護保険はまた使い辛くなりました。

コンクリートから人へって言った民主党ですよ。
新幹線や高速道路を作ってるじゃないですか。
それ、一個やめれば介護保険なんてすぐ解決するはずなんですけど。
ほんと腹立たしいです。
いや~いかん。また血圧あがりそう。

Re: No title

rippleさん、こんばんは。

>ハーバード白熱教室のマイケル・サンデル
> 教授の授業を思い出しました。

まったくそのとおりです。
サンデル教授が言いたいことは、
その国のことについて、その国の国民が真剣に
考えることしか結論は導かれないということですよね。
ほんとうに、国民は自分のこと、国家のことを
真剣に考えなければならないと思います。

誰のための優先順位か

消費税問題にしても今最大の課題であるかどうか疑問を感じています。まして北朝鮮のロケット発射に対する過剰反応に至っては、全く何を考えているのかさっぱり分からなくなります。
地震学会の南海トラフ地震被害想定の変更なんか、土建屋さんにとっては有難いかもしれませんが、国民からしたら「今更、だからどうだと言うんだ」程度の話ではないでしょうか。
メディアが特筆大書する意味を計りかねます。
政治家の目線が官僚の方を向き、メディアはただセンセイショナリズムだけを追求するだけだとすれば、問題です。

Re: 誰のための優先順位か

爺さん、おはようございます。
桜満開ですね。

> 消費税問題にしても今最大の課題であるかどうか疑問を感じています。まして北朝鮮のロケット発射に対する過剰反応に至っては、全く何を考えているのかさっぱり分からなくなります。

同感です。

> 地震学会の南海トラフ地震被害想定の変更なんか、土建屋さんにとっては有難いかもしれませんが、国民からしたら「今更、だからどうだと言うんだ」程度の話ではないでしょうか。

ほんと、言えてますね。

何か、メデイアと政治と利権企業の悪しき臭いがぷんぷんします。
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