博士と大臣



 先日、しあわせさがしさんがブログで「ポスドク(postdoc)」のことを書いていた。芥川賞受賞の円城塔氏が「ポスドク」という立場で辛酸をなめて苦労してきたこと、ポスドクの現状と問題点などが紹介されていた。そのとき、私は「博士にもピンキリありまして」と軽いコメントを残した。その思わせぶりのコメントを残したことの後ろめたさ故、ここに、私の知る限りの「博士」の実像を示すとしたい。

 まず、半世紀以上も前から言われてきた「末は博士か大臣か」という言葉は既に死語である。死語どころか、今となっては完全に嘘と言っていい。なぜなら、博士と大臣では月と鼈(すっぽん)ほどの違いがあるからである。無論、大臣が月であり博士は鼈(すっぽん)である。それではどのように違うのか。

 輩出する数が桁違いに異なる。博士の数は年間数千人~1万人に近いとも言われ、10年間で7~10万人が世に出ていることになる。しかし大臣はといえば、ひとつの内閣で副大臣を加えても精々30人。内閣改造も含めて10年間で9回の内閣が作られ、副大臣も含めて延べ人数270人ほどの大臣しかいない。10万対270の数字ほどに大臣に希少価値がある。

 次に、博士は誰でもなれるが大臣はそうはいかない。大臣になるには世襲か有名人であることが絶対的優位となる。その上で相当の財力がなければ選挙もできない。それに、いきなり国会議員というのも難しい。つまり、大臣は個人の努力だけでは到底なれない代物である。

 たとえ万一、国会議員になったとしても、大臣になる確率は極めて低い。国会議員の数は衆参合わせて722人。10年間でざっと延べ人数7220人に対する270人であるから、4%足らずの確率となる。

 そんな意味のない計算よりも、もっと大切なことがある。何と言っても、大臣になるためにはそれなりの資質がなければならないことである。正直者であってはなれない。平気でうそぶく度量がなければならない。詭弁を駆使した話し方をマスターしておかなくてはいけない。反省してないのに謝ったり、脅したりの芸のひとつもできなきゃいけない。選挙のときだけ頭をペコペコ下げる偽善者でなければならない。人に責任を負わすことに躊躇してはいけない。そして、自分は偉いんだという自負を忘れてはいけない。そうして考えると、一般の常識人にはそうそう大臣にはなれやしない。

 博士は誰でもなれると言ったが、ほんとうに誰でもなれる。それには大学を卒業しても大学院に残るのが一番、確実で早道である。大学院に残ってどこぞの教授の元で研究の振りをしてさえいれば、馬鹿でもチョンでも博士になれる。預かった教授も博士を取得してくれなければメンツが立たない。大学といういわば社会不適合者の組織の中で、同じ研究を何年もやっていれば、嫌でも博士号が与えられる。ただし、准教授や教授になれるかというと、これは別問題。教授に可愛がられなければ万年、助手である。これは大学というこの上ない陰湿な社会構造が原因である。相当お年をめしてるのにまだ准教授という肩書きの学者をテレビで見かけたら、その人は間違いなく学内の異端者である。

 博士には、大学院博士後期課程を修了する「課程博士」と大学院を経ずに論文審査と論文本数だけで決まる「論文博士」というのがある。「論文博士」というのは日本だけのものであり、これが「博士にもピンキリ」の元凶にもなっている。文科省は「論文博士」の廃止を検討しているが、未だにその制度がある。日本では一律に「博士」と称するが、欧米ではランク分けした称号が与えられていてその実力がひとめで分かる。日本では味噌もクソも同じ博士でくくっている。

 20年前から社会人ドクターの制度が盛んであり、これが博士の大量生産に拍車をかけた。民間の科学者や技術者が大学院に席を置き、大学院博士後期課程を修了して論文審査を通れば「課程博士」の称号が与えられる。しかし、会社と大学の両立は難しく、途中で投げ出す者や論文審査だけの「論文博士」で済ませたりする者が続出する。中には、ろくすっぽ大学にも行かずに博士号を取得する奴もいる。

 審査は大学によっても担任教授によっても厳しさが違う。正副審査教授の思いひとつの部分がある。であるから、社会人と教授の不適正な関係も取り沙汰される。金銭や接待の授受もある。現に私の知る人で、誰しも何であの人が「博士」という人がいて、教授との関係が取り沙汰された。その噂は事実であった。私の大学の後輩が酒席で「実はあの人の論文はすべて私が書いた」と告白したこともあった。多分、博士後期課程修了にも便宜があったに違いない。このような「偽博士」がこの世に蔓延っている。

 だから、一口に「博士」と言っても「ピンキリ」となる。これでは「博士」も「大臣」も、数こそ違えど同じ穴のムジナと言われても仕方あるまい。世の中、どのような立派な制度にも闇の部分がある。これ以上書くと、私がその闇に葬られそうであるから止めよう。





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ふむ。

コメントの「ピンキリの意味」よ~くわかりました。
ありがとう。

論文博士の大量生産の結果
みそもくそも一緒にした博士が大挙すれば
職にあぶれるのは自妙の理ですね。
政府の施策は、罪つくりです。

ジオさんは、立派な事業主。
「課程博士」活かされてますか?

おはようございま~す!

博士はピンキリなのですねぇ。

大臣と博士は月とすっぽん、とは思いませんでしたが、
違う分野のすっぽんかと思っていました・・・
ごめんなさ~い!

でも、やはり普通に生きていたのではなれないでしょう。
論文を書くにしても、やはり努力は必要でしょうし。
geoさんは、自分の博士への道を振り返ってみて
どうでしょう?

>中には、ろくすっぽ大学にも行かずに博士号を取得する奴もいる。
こんな不真面目なヤツは、いつかは落ちる。
そうじゃないのでしょうか?こんなヤツが大きな顔をしているのは
許せないんですけど。

Re: ふむ。

しあわせさがしさん、こんにちは。
ひと雨ごとに暖かくなっているのを感じますね。

> コメントの「ピンキリの意味」よ~くわかりました。

よかったです。
あそこでコメするには、ごちゃごちゃしててねぇ。

> 「課程博士」活かされてますか?

はい。結局、「死ぬまで学問」というほんとの意味を学んだように思います。

Re: おはようございま~す!

おしゃれな猫さん、こんにちは。
今日はお休みかしら?

> 違う分野のすっぽんかと思っていました・・・
> ごめんなさ~い!

違う分野のすっぽん?
下ネタですかい?

> geoさんは、自分の博士への道を振り返ってみて
> どうでしょう?

それを書けば、ブログのシリーズものになりますが、
半分、自慢話になりますからやめます。

No title

今日もジオ節がかなり唸りましたね。

おもしろく読みました。
大臣の資質に
偽博士ねぇ~
同じ穴のムジナとは・・・

でも、『水清ければ魚住まず』とも言うから・・・
だからと言って、汚すぎるともちろん、魚も住めませんが・・・















Re: No title

かをるさん、こんばんは。
いつも素敵な写真とエッセイ、
ありがとう。

> 今日もジオ節がかなり唸りましたね。

ちょっと言いすぎました。

> だからと言って、汚すぎるともちろん、魚も住めませんが・・・

はい。私は汚い川で息絶え絶えに住んでいる小魚です。

No title

博士の実像、興味深く拝読させて頂きました。
何故か、白い巨塔の派閥争いのシーンを思い出しました。
どんな社会にも、闇の部分は存在しますね。

Re: No title

引き続いてありがとうございます。

> 何故か、白い巨塔の派閥争いのシーンを思い出しました。

そうそう、そんな感じです。
ほんと陰湿ですよ。

> どんな社会にも、闇の部分は存在しますね。

夜の闇も恐いですが社会の闇は奈落の闇ですね。

No title

私の周りには「医学博士」がいっぱいいますが
何故か尊敬できる博士はいませんww
きっと高いお金が掛かったでしょうに・・
それを活かしている人にもお目に掛かれない日々です。
兄も補綴クラスプ金属の何たらカンタラで
博士号を取得しましたが 不器用で入れ歯が一番苦手ですwww
真の博士って砂漠のダイヤモンド?
なんて~偉そうなコメント出来る立場に無いんですけどネ(苦笑)

Re: No title

チカさん、こんにちは。
今日はお休みですか?

> 何故か尊敬できる博士はいませんww

人間性と関係ないみたいですよ。
私の周りも尊敬できる人いません。

> 兄も補綴クラスプ金属の何たらカンタラで
> 博士号を取得しましたが 不器用で入れ歯が一番苦手ですwww

アッハ。でも医者は器用でないとね。
神の手とかいう医師のようにね。

No title

少ないから価値がある
と言う意味では
博士は
掃いて捨てるほど
ころがっていますね

大臣すらあまり尊敬されません。
なにしろしょっちゅう変わりますから。

Re: No title

rippleさん、
こんばんは。

> 博士は
> 掃いて捨てるほど
> ころがっていますね

そのとおり、捨てても捨てても
あります。

博士にしろ大臣にしろ、人物しだいじゃないですか?


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