20ミリシーベルトと冷温停止



 国が避難区域の設定基準として示した「年間放射線量20ミリシーベルト」について、内閣府の有識者会議は妥当と認める報告書をまとめた。つまり、国の基準にお墨付きを与えたことになる。

 妥当と判断した理由について、会議はこう説明している。国際放射能防護委員会が原発事故による緊急時被曝を年間20~100ミリシーベルトと定めているので、安全性の観点から最も厳しい値を採用したと。有識者会議の報告書を受けて、政府は「20ミリシーベルトで人が住める」としている。

 さらに、20ミリシーベルトという健康リスクについて、他の発がん要因と比べても低いと明記している。その例として、喫煙は1千~2千ミリシーベルト、肥満は200~500ミリシーベルト、野菜不足や受動喫煙は100~200ミリシーベルトのリスクと同等という目安を示している。

 そこで、私の思想回路は停止する。喫煙や肥満や野菜不足をどのように放射線量に換算したのかという問題もある。しかしそれよりも何よりも、喫煙や肥満や野菜不足は個人の問題であるが、原発事故は勝手に巻き散らかした人災である。比較するのはおかしかろう。それに、喫煙者や肥満者に対する差別発言とも受け取れる。

 さらに大きな問題がある。国際放射能防護委員会が定める年間20~100ミリシーベルトというのはあくまでも緊急時の被曝許容範囲である。なぜそれが、20ミリシーベルトで人が住めるということになるのか。国が言う「住める」とは、緊急的な生態を指しているのか。一体、人が「住む」ということを国はどのように考えているのか。

 そもそも、この有識者会議の審議はわずかに一ヶ月のスピード審議である。冷温停止宣言(16日)の前日に何が何でもの駆け込み結論であることは明白である。結論ありきの審議の委員は14名。その中で「年間放射線量20ミリシーベルト」に異議を唱える委員はわずか3名。初めから結論ありきで召集されたものである。

 「年間放射線量20ミリシーベルト」に最後まで食い下がって異議を唱えたのは、独協医科大学の木村真二准教授である。彼は、人が住むためには年間放射線量を5ミリシーベルトまで厳しくするよう、激しく求めた。しかし、委員長他の多数の御用学者に押し切られた。

 この木村真二さんこそ、正義の研究者のひとりである。彼は原発事故直後まで厚労省労働安全衛生総合研究所に所属し、放射線衛生学の研究者であった。医師や看護師の被曝調査やチェルノブイリ事故の現地調査に取り組んでいた。彼は原発事故直後、「お父さん、しばらく家に帰ってこないから」と長男に告げて家を出た。住民を放射線から守るためには、まず測定しなくてはいけない。彼は現地入りの準備をした。

 準備する傍ら、彼は信頼できる4人の研究者にメールした。京大の今中哲二、小出裕章、長崎大の高辻俊宏、広島大の遠藤暁である。メールの内容は、「今、すぐに調査しなければならない。自分がサンプリングに行くので、皆で分析をしてくれ」というものである。全員が「よし分かった」と、すぐさま返信してきた。

 しかし、彼が厚労省の研究者として現地に行くことは叶わなかった。直後、所轄の上長から、勝手な行動はするなとのお達しがあったからだ。それでも彼は辞表を出して現地に出向いた。

 彼は役人であったに相違ない。しかし彼のような熱血漢の研究者もいるのである。何が問題なのか。この国には緊急時における国としてのガバナンスが欠落しているのだ。その彼は私立大学に迎え入れられた。放射線量基準検討会の委員にも選ばれたが、国の結論に押し切られた。そして、20ミリシーベルトが結論付けられた直後に「冷温停止」の宣言がなされた。

 いつから日本の国語辞典は変わったのか。百度近い沸騰した状態を「冷温」と称し、炉から溶け出した核燃料が存在するのを「停止」というのか。どこが「冷温」でどこが「停止」なのか。そして、どこが「収束」と言えるのか。「20ミリシーベルト」から「冷温停止」までの偽りの筋書きを、我々国民は到底、看過することはできない。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

そうですか・・
それでもまだ 熱血漢の人がいてくれて良かった・・
遅れたっていい きちんとした処理を望んでいるのに
まだ分っていない 
最優先は何としても予定通り 年内に宣言したかった・・
ウンザリです。
あれで国民が信じると思う浅はかさ・・
こんな茶番が真っ当だと思っている政府って何者?
こういう気持ちはどこへ持って行けばいいんですかね・・

Re: No title

チカさん、こんにちは。
今日は二日酔いじゃないですか?

> それでもまだ 熱血漢の人がいてくれて良かった・・

比較的若い研究者や技術者には熱血漢がたまにいますね。

> 遅れたっていい きちんとした処理を望んでいるのに

できるだけ早く測定して公表すれば、
多くの人を救えたと思います。
将来、大変なことになると思いますよ。
 
> あれで国民が信じると思う浅はかさ・・
> こんな茶番が真っ当だと思っている政府って何者?

政治家の感性のなさには呆れます。
かといって飛びぬけて頭が良さそうでもないし。

あ、もうそろそろ競馬の時間だ。
終わり!!!

誰がまとも受け止めるのでしょう

何を考えているのか想像もつきません。本当に困ったものです。
我が家には次の笑い話(但し事実に基づいています)があります。
孫に「総理大臣みたいになっちゃうぞ。」と言うと「お祖母ちゃん、それだけは勘弁してくれ。」
青雲の志を「末は博士か大臣か」と言ったのはどこの国の事かと思ってしまいます。

Re: 誰がまとも受け止めるのでしょう

爺さん、引く続いてありがとう。

> 孫に「総理大臣みたいになっちゃうぞ。」と言うと「お祖母ちゃん、それだけは勘弁してくれ。」

アッハ、これは面白い。でもほんとの話ですね。
プロフィール

geotech

Author:geotech
geotechのブログへようこそ!

団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
blogram投票ボタン
フリーエリア
シニア・ナビ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR