憂国の忌に



 41年前の今日、私は大学三年生であった。作家・三島由紀夫が東京・市谷の自衛隊駐屯地に乱入し、クーデターを呼びかけて割腹自殺した日である。不思議なことに、そのときにはそれほど大きな事件として受け止められなかった。しかしその後、壮絶な死を知るにつれて私の中で大きな衝撃となっていった。

 彼が死をかけて訴えた「憂国」とは、一体何だったのか。戦後民主主義のあり方、日本国憲法改正の必要性、自衛隊の存在意義、日米安保への懐疑などであろうか。

 ここで今一度、彼の演説内容を読んでみよう。



三島由紀夫



 ………は、聞き取り不能
太字は、野次に対する三島の叱咤
斜字は、野次


『私は、自衛隊に、このような状況で話すのは空しい。しかしながら私は、自衛隊というものを、この自衛隊を頼もしく思ったからだ。こういうことを考えたんだ。しかし日本は、経済的繁栄にうつつを抜かして、ついには精神的にカラッポに陥って、政治はただ謀略・欺傲心だけ………。これは日本でだ。ただ一つ、日本の魂を持っているのは、自衛隊であるべきだ。われわれは、自衛隊に対して、日本人の………。しかるにだ、我々は自衛隊というものに心から………。
 静聴せよ、静聴。静聴せい。 
 自衛隊が日本の………の裏に、日本の大本を正していいことはないぞ。
 以上をわれわれが感じたからだ。それは日本の根本が歪んでいるんだ。それを誰も気がつかないんだ。日本の根源の歪みを気がつかない、それでだ、その日本の歪みを正すのが自衞隊、それが………。
 静聴せい。静聴せい。 
 それだけに、我々は自衛隊を支援したんだ。
 静聴せいと言ったら分からんのか。静聴せい。 
 それでだ、去年の十月の二十一日だ。何が起こったか。去年の十月二十一日に何が起こったか。去年の十月二十一日にはだ、新宿で、反戦デーのデモが行われて、これが完全に警察力で制圧されたんだ。俺はあれを見た日に、これはいかんぞ、これは憲法が改正されないと感じたんだ。
 なぜか。その日をなぜか。それはだ、自民党というものはだ、自民党というものはだ、警察権力をもっていかなるデモも鎮圧できるという自信をもったからだ。
 治安出動はいらなくなったんだ。治安出動はいらなくなったんだ。治安出動がいらなくなったのが、すでに憲法改正が不可能になったのだ。分かるか、この理屈が………。
 諸君は、去年の一〇・二一からあとだ、もはや憲法を守る軍隊になってしまったんだよ。自衛隊が二十年間、血と涙で待った憲法改正ってものの機会はないんだ。もうそれは政治的プログラムからはずされたんだ。ついにはずされたんだ、それは。どうしてそれに気がついてくれなかったんだ。
 去年の一〇・二一から一年間、俺は自衛隊が怒るのを待ってた。もうこれで憲法改正のチャンスはない!自衛隊が国軍になる日はない!建軍の本義はない!それを私は最もなげいていたんだ。自衛隊にとって建軍の本義とはなんだ。日本を守ること。日本を守るとはなんだ。日本を守るとは、天皇を中心とする歴史と文化の伝統を守ることである。
 おまえら聞けぇ、聞けぇ!静かにせい、静かにせい!話を聞けっ!  
 男一匹が、命をかけて諸君に訴えてるんだぞ。いいか。いいか。 
 それがだ、いま日本人がだ、ここでもってたちあがらなければ、自衛隊がたちあがらなきゃ、憲法改正ってものはないんだよ。諸君は永久にだねえ、ただアメリカの軍隊になってしまうんだぞ。諸君と日本の………アメリカからしかこないんだ。
シビリアン・コントロール………シビリアン・コントロールに毒されてんだ。シビリアン・コントロールというのはだな、新憲法下でこらえるのが、シビリアン・コントロールじゃないぞ。
 ………そこでだ、俺は四年待ったんだよ。俺は四年待ったんだ。自衛隊が立ちあがる日を。………そうした自衛隊の………最後の三十分に、最後の三十分に………待ってるんだよ。
 諸君は武士だろう。諸君は武士だろう。武士ならば、自分を否定する憲法を、どうして守るんだ。どうして自分の否定する憲法のため、自分らを否定する憲法というものにペコペコするんだ。これがある限り、諸君てものは永久に救われんのだぞ。
 諸君は永久にだね、今の憲法は政治的謀略に、諸君が合憲だかのごとく装っているが、自衛隊は違憲なんだよ。自衛隊は違憲なんだ。きさまたちも違憲だ。憲法というものは、ついに自衛隊というものは、憲法を守る軍隊になったのだということに、どうして気がつかんのだ!俺は諸君がそれを断つ日を、待ちに待ってたんだ。諸君はその中でも、ただ小さい根性ばっかりにまどわされて、本当に日本のためにたちあがるときはないんだ。
 それでもそのために、われわれの総監を傷つけたのはどういうわけだ 
抵抗したからだ。憲法のために、日本を骨なしにした憲法に従ってきた、という、ことを知らないのか。諸君の中に、一人でも俺といっしょに立つ奴はいないのか。
 一人もいないんだな。よし!武というものはだ、刀というものはなんだ。自分の使命………。
 それでも武士かぁ!それでも武士かぁ! 
まだ諸君は憲法改正のために立ちあがらないと、見極めがついた。これで、俺の自衛隊に対する夢はなくなったんだ。それではここで、俺は、天皇陛下万歳を叫ぶ。
 天皇陛下万歳! 天皇陛下万歳! 天皇陛下万歳!』



 今、彼の演説を再読するにつれ、日本はそのときから何も変わっていないことを実感する。否、変わっていないどころか、むしろ後退しているのである。米国から押し付けられた現・日本国憲法は今だに改正されていない。改正されていないどころか、改正への積極的な気運すらなく、むしろタブー視されているではないか。

 今、流行の「シビリアン・コントロール」という言葉であるが、彼は41年も前に使っているのである。その「シビリアン・コントロール」について、現内閣の防衛大臣は就任直後、「私は防衛問題には素人である。そのことがつまりシビリアン・コントロールになる。」と発言した。この何ともお粗末な馬鹿な発言を、三島由紀夫は雲の上で何と思おうぞ。嘆かわしいどころか、やはり生きながらわなくてよかったと、さぞ胸を撫で下ろしていることであろう。
 
 私は右でも左でもない。天皇制尊奉論者でも反対論者でもない。しかし彼の言っていることには共感する部分が多い。それは、今の日本に警鐘を鳴らすいくつかの要素があると考えるからである。最も大切なことは、日本人が「日本の心」を失いつつあることである。日本の文化と伝統を守るために、日本人がどれほどれほどの努力をしてきたのか。日本人たる資質をどれほど大切にしてきたのか。武士たる魂を持つ日本人がどれほどいるのか。日本を救う覚悟と信念を持っているのか。

 今日、憂国の忌に、「金閣寺」でも読み直して秋の夜長をつらつらと日本の未来に思いを馳せたい。
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No title

三島由紀夫割腹自殺は、本当に衝撃的な事件でした。
国を憂えての行為だったと言われていますが、彼自身、
老醜をさらす事に恐怖感を覚えていたとも言われており、
遅かれ早かれ自殺は、考えていたようです。
今の世の中、自分の命を絶ってまで、意思を貫き通す
ようなガッツのある人は、絶滅してしまいましたね。

Re: No title

トパーズさん、おはようございます。

> 国を憂えての行為だったと言われていますが、彼自身、
> 老醜をさらす事に恐怖感を覚えていたとも言われており、
> 遅かれ早かれ自殺は、考えていたようです。

そのように噂されてますが、果たして真実はどうでしょう。
とかく国は、不利な行為に対していろんな噂を立てさせるくらいの
ことはしますから、何とも。

こんにちは~

休憩中にお邪魔します。
41年前、留学中のことでした。
アメリカの新聞の一面に三島由紀夫の写真入りの記事見て、本当に驚きました。
書いてあることが理解できず、学校では授業中に、説明しなさい、と先生に言われ、何も言えなかったことを思い出しました。

geoさんが書かれたこと、本当に納得です。

有意義なお昼休みになりました(^-^)/

No title

人質とって寝言を聞かせるのが日本文化とは思えませんね
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