一枚の喪中葉書


 「喪中につき年末年始のご挨拶ご遠慮申し上げます」
 郵便ポストに葉書が一枚、届いていた。差出人は大学の同級生Y君の細君である。印刷された定型文の横に、手書きで「大変お世話になりました」と添えられてあった。しかし、その文字は怒り狂ったように乱れた殴り書きであった。

 Y君とは高校も大学も一緒の、いわば同じ釜の飯の仲である。大学時代、普通の家庭に育った彼は下宿していたが、私は経済的に恵まれなかったので片道30Kmを自宅から大学まで自転車通学した。試験の前の日だけは彼の下宿に泊めさせてもらった。そんなことから、同級生といえども、彼にはもともと恩があった。

 大学時代の彼は根暗であった。対照的に私は際ぶる社交的であった。酒場や家庭教師のアルバイトに奔走する私とは対照的に、彼は勉学に勤しんだ。彼は真面目で、思いつめるタイプであった。大学二年のときに、彼はコンパで知り合った女性と失踪したこともあった。やがて彼は大学に残り、私は会社人間となり、離れ離れになった。

 私が広島に戻って、学会関係などで彼と接するようになった。その時、彼は努力して既に大学教授になっていた。彼は地元の学校にボランテイアで防災知識を教える活動をするなど、地域に貢献する学者としてその名を馳せた。その反面、彼は気が弱くいろんな誘いに乗ることも多かった。バーの女性に夢中になって、一時期、酒に溺れた。業者の誘惑に乗るなど、良からぬ噂も立った。

 そんな彼は精神的な病気を患った。あるとき、彼も私も同じ学会に参加するのに、同じ新幹線に乗ってくれないかと頼んできたこともあった。途中で何かあったらと心配してのことであった。時々は大学の彼の部屋に訪れて体調を気遣った。大学改革や大学での人間関係に疲れた様子であった。自信なさそうな気弱な声で、眼鏡の奥にあるうつろな目で私に相談も持ちかけてくることもあった。

 そんな彼が自ら命を絶った。それも大学の構内の屋上からの飛び降りという衝撃的な出来事であった。いろいろな噂が立った。彼はその当日朝、大学病院の精神科に出向いていたことが分かった。良からぬ噂に彼が関与していないことを私は信じる。ただ、彼の細君の怒り狂ったように乱れた文字の殴り書きが気になる。私に何かしてあげられなかったのかと、悔いが残る一枚の喪中の葉書を今、手にしている。
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人事じゃない

お友達、とても繊細で傷つきやすい性格だったのが
よく判ります。
娘に2回ほど危機があって
毎日ぴったり寄り添っていました。
私も欝、パニック障害を30年抱えていたので
死にたい絶望感喪失感理解できます。

今強い々って言われるけど
弱い自分を隠しているのかも(-.-;)

Re: 人事じゃない

greenさん、こんにちは。
先日の六甲でのオフ会、とても楽しかったようですね。

> 娘に2回ほど危機があって・・・・・・・・
> 死にたい絶望感喪失感理解できます。

そうだったのですか。
今、お会いしてもそんな過去は微塵も感じませんが。
聞いてみないとわからないものですね。
人それぞれにみないろんな苦労をされてきたわけですね。

> 弱い自分を隠しているのかも(-.-;)

弱さと強さは同居しているのでしょうね。

合掌

辛い喪中葉書を手にされて、迷っていらっしゃる姿が目に浮かびます。

奥さまがお気の毒ですね。
勿論本人が一番つらかったことは事実ですが・・・・

お墓の前で,なんで?と語りかける以外、
思い出を反芻する以外、なさそうですね。

友人をそんな形で失いたくないです。
お酒を飲んでもしばらくは、苦いだけです・・・・

ある意味、真直ぐ過ぎた方だったのでしょうか?

Re: 合掌

ミルフィーユさん、おはよっ。
相変わらず、深夜組ですね~。

> 思い出を反芻する以外、なさそうですね。

「反芻」読めなかったです。
こんな字を書くのですね。

> ある意味、真直ぐ過ぎた方だったのでしょうか?

はい。純な男でした。
純なだけに、悪になりきれず、
さりとて要領も悪く、
カワイそうな奴でした。
落ち着いたら、花をたむけに行きます。

殴り書き

geoさんは恨まれる覚えはないし、わざわざ手書きで
文を添えてあるんだから・・・・・怒り狂ってるってわけじゃ
ないと思いますがね。
精神的には落ち着いていないかもしれないけど。
もともとそんな字を書く人じゃないのかな┐(´-`)┌

Re: 殴り書き

やまとおのこさん、こんにちは。
久しぶりの雨ですね。

> 精神的には落ち着いていないかもしれないけど。

そう思いたいです。
でも、何となく悔いが残ります。

No title

衝撃的なお話しですね
自ら命を絶つ・・・・
もしかしたら誰にでも訪れる瞬間かもしれないけれどそれを何とかスルーして今があるのかも?

Re: No title

さくら子さん、こんばんは。

> もしかしたら誰にでも訪れる瞬間かもしれないけれどそれを何とかスルーして今があるのかも?

はい、そう思います。
今、生かされていることに感謝しなければ。
いつもありがとうございます。
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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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