もうひとりの東電社員


 津波で建物が消えた南相馬の海岸線に、毎朝、作業員風の男性が来るという。彼は家の跡に設けられた祭壇の前にしゃがみこんで、目を閉じて手を合わす。祈る合間に倒れた花瓶を直し、辺りの雑草を抜く。埋もれたおもちゃなどを掘り起こす。立ち上がると別の祭壇へ移動する。1時間ほどかけて20箇所ほどの祭壇を巡るという。

 彼は遺族ではない。地元の人でもない。けれど、毎朝欠かさず来るという。実は彼は東電社員であることがわかった。福島第一原発から南相馬に派遣された社員であった。日々、賠償の説明に奔走し、住民の怒りと向き合っている東電社員である。

 なぜ彼は津波の犠牲者のために祈るのか。「原発事故ですぐに捜してもらえなかった人がいる。弔うことができなかった遺族もいる。私にできることは手を合わすことぐらい」彼はそう答えたという。

 東電の会見においては「約束した安全と安心を裏切り、心から申し訳ない」と繰り返される。その言葉は毎回、実際の思いとは裏腹の、空言の薄っぺらい儀礼に感じる。しかし、この祈る東電社員の気持ちは十分に伝わってくる。東電という会社は、重大な事故を起こした悪い会社である。しかし、悪いのは会社であって、すべての東電社員が悪い訳ではない。祈る社員もいるし、心底、詫びる社員もいよう。その社員には家族もある。

 東電の賠償責任は際限なく追求すべきである。その一方で、つつましく祈る社員もいることも忘れてはいけない。東電社員だから、その家族だからと、それだけで社会が偏見することだけは避けたい。
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じーんときます

会社と、そこに働く社員の良心は一つではありません。
社員、家族の苦しみは想像もできないです。
重い荷物を背負い生きて行かれる事を考えると言葉がありません。
東電社員の行動に涙します。

No title

ちょっと、ジンと来る話ですね。
後世に伝わる埋もれた話は、この度の震災では他にも沢山ありそうですね。
重荷を背負って、生きるしかない・・・・
せめて出来ることとして彼は個人の意思としてやっていることでしょうが、一社員と言うのが泣かせます。

No title

ちょっと山崎豊子の沈まぬ太陽の主人公が御巣鷹山被害者家族に頭を下げているシーンを思い出しました。
それから、
能天気にSP従えて遍路道を歩いてる前総理も浮かんできました。

Re: じーんときます

奈良の与作さん、こんばんは。
お元気でしょうか?
いつか一度お目にかかれるといいですね。

> 社員、家族の苦しみは想像もできないです。

その立場に立てば苦しいと思います。
社会に何にも言えないのが、苦しいと思います。

> 東電社員の行動に涙します。

私もこの話を聞いて、ジ~ンときました。

Re: No title

ミルフィーユさん、こんばんは。
今日はひどい雨でした。
この雨、明日、そちらに送り申しますので(笑)。

> せめて出来ることとして彼は個人の意思としてやっていることでしょうが、一社員と言うのが泣かせます。

それにひきかえ、今日の九州電力社長の会見見てると、
気分が悪くなるくらいです。
どうしてですかね。
あんな人、いい死に方しないだろうなって思っても、
それが案外、悪人ほどいい死に方したりして。
世の中、ままならないですね。

Re: No title

みかんさん、こんばんは。
そちらもひどい雨でしょ。
広島も今日一日、雨でした。

そういえば、山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」のシーンに似てますね。

いつも、ぶっちゃけ本音トークを楽しませてもらってます。

No title

東電に良心のある社員がいた事実を知り
少し救われた気持ちです。

No title

毎朝神棚に
原発事故の
解決を願い
作業員の
無事を祈っている

Re: No title

トパーズさん、こんにちは。
こちら広島は昨日、猛烈な雨でした。
いよいよ秋本番です。

> 東電に良心のある社員がいた事実を知り
> 少し救われた気持ちです。

そう私も思います。
いつもテレビで悪代官みたいな
面しか見てないもので(笑)。

Re: No title

rippleさん、こんにちは。

rippleさんの正義感あふれる
生活ぶりにはいつも感心しています。

> 毎朝神棚に・・・・・・

なかなかできなことです。
爪の垢でも・・・
トホホホ。

同感です

大勢の中にはそんな社員もいるでしょう。
許せないのは、自分の事と会社の事しか考えていない人間です。
上に行くほどそうなるのはやむを得ないでは済まされません。

Re: 同感です

爺さん、こんにちは。
いつもありがとうございます。

> 上に行くほどそうなるのはやむを得ないでは済まされません。

普通は上にいけば首を垂れていくものですが。
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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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