「憂国の詩人」と私

 私が勝手に「憂国の詩人」とネーミングする、かの詩人は、いつも感性的な詩を書く。「感性的」との表現は、とりあえず感覚的に評したまでである。

 というのも、何を隠そう、私には彼の詩の内容たるや何もわからないのだ。彼が何を言わんとしているのか、全くといっていいほど理解できないのである。「チョコレート色の夏」にいたっては、私には原爆が投下されたこの地、広島のそのときの夏を想像するまでである。

 私とて、啄木や高村光太郎、宮沢賢治の詩を全く理解できないものではない。谷川俊太郎など、好きな詩人も多くいる。しかし、私には彼の詩がわからない。

 ということは、彼は啄木以上であり、賢治以上であるのかも知れぬ。最近、真面目にそう思うようになってきたのだ。だとすれば、今のうちに親しくさせてもらっておこう。そうすれば、後世、かの有名な詩人の友として名を残すことになるかも知れぬ。そんな邪心が沸いてきた。

 彼の詩は旋律でいうと♯ではない。間違いなく♭である。それも♭が二個や三個もついたものである。リズムも4分の4拍子ではない。恐らく4分の3拍子だろう。変ロ長調か、あるいは変ナ単調かも知れない。我が故郷の詩人・中原中也の雰囲気を持つ。しかし、詩の中身は中也以上に難解である。

 彼の詩の中にある、めくりめく思い、レトロな情景、いたたまれない感傷、過去への懺悔など。それらの叙情的・感傷的・寂寥的・厭世的な表現は、私の感性の領域をはるかに超越したものである。一度、彼に、彼の詩がどういう意味なのか解説してもらいたい。しかし、詩の解説など聞いたこともない。やめておこう。曖昧さが故に、それが彼の高尚な詩の屋台骨になっているのであろうから。

 考えてみれば、かの詩人と私とでは生い立ちや人生観があまりに違いすぎる。彼は少年の頃、最果ての地・根室より荒れ狂うオホーツクを眺めていただろう。同じ頃、7歳も年下の私は下関・壇ノ浦の海峡から遠く朝鮮半島を眺めていたのだ。そもそも、ふたりは北と南の最果ての地で、それぞれに違った方向を眺めていたことになる。

 かの詩人は、大学時代、私の憶測では講義にろくすっぽ出ないで文学に没頭したであろう。いや、そうに違いない。学生運動にも加わったであろう。そして、その後、政治にも関わったと聞いている。その政治姿勢たるや、市民リベラルだと想像できる。

 一方、私はといえば、かの詩人が大学を卒業して7年後、東大安田講堂事件の最中、大学四年生であった。学生運動に組み入ることなく、ノンポリ学生として、私は研究室で実験に没頭していた。同じ没頭したといっても、文学と実験では全く違う。アフファベットの頭文字だけは同じだが(literatureとlaboratory)。

 そして、今、かの詩人は花のお江戸は上野に近い雑踏の中、どう猛ながら愛くるしいマオといる。それに引き換え、私はといえば、平和都市・広島にて穏やかな瀬戸内を眺めて暮らすものの、屋敷には恐い神が住む。彼と私ではそれほどに環境が違う。

 そのような相反する詩人と私ではあるが、わずかに共通点がある。それは、こよなく酒と女を愛することである。それに加えて、詩人と私には底辺に共通のキーワードがあるように思う。それは、「貧困」と「反骨」である。ただ、同じ「貧困」といっても、終戦前に生まれた彼と戦後の私では意味合いは違うが。

 しかし、詩人に酒と女はよく似合う。詩人には貧困と反骨がよく似合う。酒と女、貧困と反骨が彼の詩の屋台骨であろう。やはりここでも私に勝ち目はない。詩も理解できない。酒と女の趣味でも負ける。無論、人生においても7年も長きにわたる先輩である。そこで私は「憂国の詩人」を師と仰ぐことにした。

 師である「憂国の詩人」に物申す。酒の飲み方を教えてくだされ。女の愛し方を教えてくだされ。人生の機微を教えてくだされ。死の迎え方を教えてくだされ。そして、もし私が師より先に逝くことがあったときには、儀に参列して優雅な詩を献上してたもれ。
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う~ん

こんにちは~
先日足つぼマッサージに行ったのですが、疲れが中途半端に
残っているようです。今週は、オイルの全身マッサージに行きます^^

>間違いなく♭である。

ホントだ!

>中原中也の雰囲気を持つ

そんな感じ!

ある事を表現するとき、凡人と詩人では、まったく違う世界になると
思います。私は凡人です^^

Re: う~ん

おしゃれな猫さん、こんばんは。

> 先日足つぼマッサージに行ったのですが、疲れが中途半端に
> 残っているようです。今週は、オイルの全身マッサージに行きます^^

足つぼマッサージですか?
私が大の苦手にしているものです。
イボイボの上を歩くだけで、ヒャーです。
オイルマッサージで疲れがとれたらいいですね。

> ある事を表現するとき、凡人と詩人では、まったく違う世界になると
> 思います。

改めて、私は凡人だと思いました。
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