科学者の良識


 科学者がその専門性から知り得た見解を公言することは社会的責務である。また専門性から将来を予測すること、これもまた社会的責務である。

 しかしながら、公言する知り得た見解に多寡や偽りがあってはならない。さらに将来予測を発表する場合には、予測の条件と適用限界を明確にしなければならない。そして、何よりも「わからない」ことは、明確に勇気をもって「わからない」と答える義務がある。

 科学技術の国家試験において資格者に課せられる重要な資質はふたつある。ひとつは守秘義務である。国家や組織の中で知り得た情報をむやみに外部に漏出してはならない。そういう意味では、例の海上保安庁職員によるビデオ漏出は、それ自体、公務員法に抵触する。

 もうひとつの資質は、「わからない」ことを明確に「わからない」と答えることである。国家試験において知ったかぶりの答弁をすると、間違いなく合格しない。筆記試験で合格しても面接で不合格になる人を数多く見てきた。その人たちの大半が、知ったかぶりの答弁が不合格の原因である。

 さて、このような科学技術者としての良識ともいえる基本理念に鑑みて、昨今の事件を見るとどうだろう。科学の中でも自然科学というのは最も不明確なことが多い分野である。にもかかわらず、津波や地震の予測を安直に行っている。予測に関する今までの発言をすべて覆されたにもかかわらず、まだ誰も「わからない」と言わない。そればかりか、謝罪もしていない。

 放射能に関しても「わからない」ことが多すぎる。低レベル放射能の長期における体への影響、体内被曝の実態など、「わからない」ことだらけである。国民や市民が、科学者は偉いという先入観で見ること自体に問題はある。、科学者は何でも知っているという偶像を描くことにも問題はある。しかしながら根本的な問題は、科学者自身が「わからない」ということを明確にしていないことである。
 
 私は自身の会社のホームページのトップに10年も前から「地震予知ははっきりいって何もわかっていない」と公言している。私にとって信頼できる科学者は「わからない」と言える科学者である。例えば、東京大学教授のロバート・ゲラー(地震学)である。彼は英科学誌「ネイチャー(Nature)」に「時代遅れの学説に基づいた地震予知を即刻やめるべきだ」と投稿している。我が意を得たりと思っている。

 科学者は今こそ、科学者としての良識を真摯に自問すべきである。
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良識

解らないことを、解らないと勇気を持って言うこと。

簡単ではない行為です。

まして、頭脳を恃みに仕事をしてきた自負はきっと、

想像以上のものと、察します。

ジャンルは違いますが、

私の好きな、白洲次郎を思い出しました。

カッコイイ、です。   二人とも・・・・・

No title

>放射能に関しても「わからない」ことが多すぎる。

>科学者自身が「わからない」ということを明確にしていないことである。

同感ですね。

特に、既に「わかっていること」事実と放射能との因果関係について、どこまでが分かったのでしょうか。被曝基準値はそこから導き出されているのでしょうが、実に曖昧な運用に思えます。
「わからない」ことが多すぎる。故に不安は増すばかりです。

Re: 良識

ミルフィーユさん、おはようございます。

> まして、頭脳を恃みに仕事をしてきた自負はきっと、
> 想像以上のものと、察します。

たいしたこともないプライドが邪魔しているのでしょう。

> 私の好きな、白洲次郎を思い出しました。

私も大好きです。
あのような生き方を望んでいます。

今日も暑いです。気をつけて。

Re: No title

爺さん、おはようございます。

いつもありがとうございます。
一度お会いしたいですね。

> 「わからない」ことが多すぎる。故に不安は増すばかりです。

自然をわかったつもりでいる人間の愚かさが問題ですね。
それでは、わからないことによる不安をどのように解消すればよいのか、
そこらへんが今後のテーマですね。
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