鬼怒鳴門と日本人のこころ

 日本文学研究の泰斗であるコロンビア大学教授のドナルド・キーン氏が日本国籍を取得して日本に永住することを決めた。既に東京北区に30年も住み、名誉区民でもある氏であるが、東日本大震災で逃げ出す永住外国人の群れを見て、日本のために何が出来るかを考えた末の決断だという。「うれしいじゃねぇか、おめぇさん、江戸っ子だねぇ」って、すぐに駆けつけて声をかけたい思いである。

 ドナルド・キーン氏は16才のときに何気なく手に取った源氏物語の翻訳本に感動した。それがきっかけで、日本の文学と文化に傾注していったという。数々の翻訳本の他に、「日本文学の歴史」「百代の過客」「明治天皇」などの著書でも知られる。安部公房、三島由紀夫、谷崎潤一郎、川端康成など、日本を代表する作家とも親交が深い。

 日本びいきで日本好きなキーン氏であるが、日本人の心の本質を理解するのに時間を要したという。彼は日本文学ではなく、日本人作家の日記に目をつけた。日常的な生活の中に日本人の心を探そうとしたのである。その中の一冊、「高見順日記」が彼の目に留まった。その一節には、終戦直後、上野駅の雑踏の中で列車の順番を整然と待つ群集の姿が描かれていた。高見順は「このような国民と同じ日本人であることを誇りに思う。彼らと一緒に死にたいと思う。」と綴っている。

 ドナルド・キーン氏は、今回の大震災で大好きな日本の風景が壊れて、大好きな日本人が多数、死んでしまったことに、計り知れない衝撃を受けたという。キーン氏は松尾芭蕉の「奥の細道」をたどる旅をして英訳出版したこともある。仙台に住んだこともある。東北大学名誉教授でもある。それだけに、芭蕉ゆかりの地の風景の変貌に、言い知れぬほど心を痛めたことであろう。

 その一方で、被災地の方々の忍耐強さ、秩序ある振る舞いに感動し、畏敬の念を抱いたという。それは、まるで「高見順日記」に描かれた情景と同じであった。その時、彼は日本人の心の本質を確信したに違いない。

 ドナルド・キーン氏は最終講義の冒頭、参加した大学院生らにこう語ったという。「愛する日本に移り、余生をすごす。大震災や福島原発で多くの外国人が日本を離れる中、私の決断に驚いた人もいたが、勇気をもらったと言ってくれる人もいた。そうだといいなと思う。永住後は、求められれば被災地に行って講義したい。被災者の忍耐強さに深く尊敬している。」と熱っぽく語ったという。そして、最後の講義は日本の古典芸能の「能」であった。別れに「私は日本という女性と結婚するのだ」とも語ったらしい。

 ドナルド・キーン氏が帰化する意味は何なのか。日本人の文化的素養の高さに感銘したひとりのアメリカ人少年が、長じて日本文学研究の第一人者になり、さらに日本人になるということである。日本人が忘れていた日本人としての誇り、日本人のすばらしい素養と文化に対する誇りを、老齢のアメリカ人学者によって思い起こさせてもらっているのである。そして、「いたわり」「つつましさ」「はじらい」という日本人ならではのすばらしい人間性を、改めて我々日本人に教えてもらっているのである。

 ドナルド・キーン氏は帰化後の名前を「鬼怒鳴門」(きーん・どなるど)にすると表明した。栃木・鬼怒川と徳島・鳴門に引っ掛けた名前である。あくまでも日本にこだわり、日本人よりも日本人的な学者の良心に感謝したい。鬼怒鳴門さんが永住の地として選んでいただいた日本、その日本国の民衆の一人であることを誇りに思い、素直に喜びたい。鬼怒鳴門さんの日本永住の決断に、日本国民の一人として「ありがとうございます」と申し上げたい。そして、我々は彼の決断を裏切ることなく、「日本人のこころ」をもち続けていきたい。


万歳、日本!万歳、日本人!
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今日は一段と・・

熱いですねぇ。
ジオさんの思いが深く伝わってきます。
そうですね、ドナルド・キーン氏の英断に拍手ですね。

それにしても・・・
どうも一致しないのであります。
このあいだお会いしたジオさまと
文章のあなた様が・・・う~んんん~っ。

No title

今晩は!
ドナルド・キーンさんが日本に帰化・・・・・・・
おめでとうございます、って変ですか?

嬉しいですよね。
日本人として。
日本の心を理解するのに作家の日記に目をつけたのは、正しい選択だったと思います。

高見順の詩に励まされたことも、遠い昔にありましたっけ・・・・・

小説家の余技で、やはり詩は完成度はいまいちかもしれませんが、食道癌を患い、余命いくばくもない時期の絶唱ともいえる「詩」には魂の叫びが籠っていて、生きる力が湧いてきた記憶があります。

世界中、人としての心はみんな一緒なんですよね。
震災の後の日本に帰化したことが、キーンさんの心、なんですね。

Re: 今日は一段と・・

しあわせさがしさん、こんばんは。

> 熱いですねぇ。

いつも熱いですよ。
おまけに平熱も36.8℃です。
そのうち、フクシマのように爆発するかも。

> どうも一致しないのであります。
> このあいだお会いしたジオさまと
> 文章のあなた様が・・・う~んんん~っ。

どうしましょ。ほんとの私はどっち?
教えてくださいませ。

Re: No title

ミルフィーユさん、こんばんは。

> 高見順の詩に励まされたことも、遠い昔にありましたっけ・・・・・

今、初めて読んでます。

> 小説家の余技で、やはり詩は完成度はいまいちかもしれませんが、食道癌を患い、余命いくばくもない時期の絶唱ともいえる「詩」には魂の叫びが籠っていて、生きる力が湧いてきた記憶があります。

そうなんですか、教えてくださいな。
私は無知ですから。

> 世界中、人としての心はみんな一緒なんですよね。

そうだと信じたいです。

No title

ドナルド・キーン
日本人より日本的な
人といってもいい
世界の日本理解に
どれほど貢献しただろう

Re: No title

rippleさん、どうもです。

早速の五行歌、ありがとうございます。

感動しました

ドナルド・キーンさんの決意は感動しました。
正にごく普通の日本人が持っている愛国心とは少し違うかもしれませんが、「日本と言う女性と結婚する」と語る氏の心根を深くかみしめたいと思います。

おはようございます^^

外国人から日本を学ぶ。外国人の目から見た日本の姿は、
日本人が気がつかない「日本の良さ」なのでしょうね。

日本を離れて日本を見たり感じたりすると、やはり同じように
日本の良さを感じます。

今、パソコンの前で、「日本、ばんざい!」って叫びました。
聞こえました?

Re: 感動しました

爺さま、ご返事が遅れて申し訳ありません。

おはようございます。

> ドナルド・キーンさんの決意は感動しました。

私自身も書いていて、熱くなりました。
頑張らなきゃ、ですね。

いつもありがとうございます。

Re: おはようございます^^

おしゃれな猫さん、

1日遅れで、おはようございます。

土日は自宅で自分のノートで閲覧しているのですが、
ワイアレスのMAXなので通信状態が不安定です。
途中で切れたりしてご迷惑おかけしてます。
ということで、ご返事が遅れました。

> 日本を離れて日本を見たり感じたりすると、やはり同じように
> 日本の良さを感じます。

おしゃれな猫さんはとくに海外生活の経験がおありだから、
身にしみてわかのでは。

> 今、パソコンの前で、「日本、ばんざい!」って叫びました。

私も、まとめてて、熱くなりました。
少し涙も出ました。

ありがとうございました。
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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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