自然との共生

 日曜日の昼下がり、マンションの廻りを散歩する。マンションの目の前は何の隔たりもなく、すぐに瀬戸内の海が広がる。マンションと海との間は防波堤となっていて、幅10mの防波堤の上は散策用のプロムナードとなっている。潮風に満たされ、海は限りなく穏やかである。日本のこの状況下において、このような平和な空間を享受することが憚(はばか)れる心境である。が、この防波堤だっていつ大津波が乗り越えるものか、わからない。

 防波堤の構造計算は波の高さと衝撃力によって決まる。東北の太平洋沿岸は古くから津波の被害を受けてきた。チリ地震の津波が契機となって、平均して波高7m程度の津波に耐えられる、当時としては画期的な高潮堤が施工された。これは日本における標準的な設計仕様からはるかに安全な設計である。しかし現実は、それをはるかに超える大津波に襲われた。

 それでは、波高10mの衝撃力に耐える防波堤を作り直せばよいのか。さらに、1000年後に波高20mの大津波に襲われたら、今度は波高25mの防波堤を作り直すというのか。その考え方がそもそも根本的に違うのである。今回の大津波に対する備えの間違いは、堤防の高さの問題ではない。自然に対して力で対抗しようとした考え方に本質的な問題がある。鋼なものにはフレキシブルな柔で対抗しなければならない。

 まず、大津波の予知対策が全くなされていなかったことが問題として挙げられる。海上の沖合いに距離を変えてGPS潮位計を設置すれば、大津波の予知が可能である。避難までに数時間をかせぐことができる。

 次に、大津波の衝撃力を最後の砦である海岸線で一気に受ける仕組みに問題がある。遠く沖合い海底に衝撃力を消散する対策があれば海岸線の衝撃力は緩和される。大津波の衝撃を消散させる防波堤の形状や構造上の工夫によってもかなり違う。

 そして何よりも問題なのは、自然と共生する姿勢に欠けていたことである。住居エリアと商業エリアの区別、巨大な地下貯留空間、自然景観と防災施設の共存、避難道を意識した道路網など、将来の防災都市建設のキーワードは「自然との共生」である。

 そして何より大切なことは、防波堤を高くするのではなく、国民ひとりひとりの防災意識の心のハードルを上げることであろう。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

きよしさま、お久ぶりです。(コメントが、、)いつも読ませていただいています。  でも、日本には多くの学者、知識のある方がいてどうしてきよしさんの書かれているようなことができないのでしょうか。私はそれが不思議でなりません。

No title

>防災意識の心のハードルを上げることであろう

言えてますね。
認識の甘さや人間の驕り。
123年前に今と似たような大きな津波を経験しており
「ここから下に家を建てるな」という碑が
建てられていたようですけれど
みな、過去のこととして・・・受け止めている。
防災意識・・様々な要因が考えれられますね。
大切なことと思います。

Re: No title

dorucasuさん、おはようございます。

>でも、日本には多くの学者、知識のある方がいてどうしてきよしさんの書かれているようなことができないのでしょうか。私はそれが不思議でなりません。

いろいろと理由はありますが、一言でいって、個の技術力はあるのですが、統括集約する力に欠けていると思います。それに科学技術が時の政府に支配されています。例えば、原子力安全委員会には推進派しか委員になれません。たまに武田先生(co2規制無論者)のようなまともな学者は袋叩きにあっています。
無論、学者の側にも責任があります。
風になびかず正論を突き通す学者が少なくなっています。

では、また。

Re: No title

しあわせさがしさん、毎度です。

> 認識の甘さや人間の驕り。

そこですね、問題は。

> 123年前に今と似たような大きな津波を経験しており
> 「ここから下に家を建てるな」という碑が
> 建てられていたようですけれど

そうなんですよ。
きつい言い方ですが、「昔ながらの土地だからそこに住みたい」
それこそ甘えだと思います。(公式には書けませんが・・・・)
災害で憂き目に合っても泣き言言わないのであれば
それでもいいのですが。

防災意識元年ですね。

ではまた。
プロフィール

geotech

Author:geotech
geotechのブログへようこそ!

団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
blogram投票ボタン
フリーエリア
シニア・ナビ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR