老いの覚悟

 私には曽野綾子の言う「老いの才覚」の「才」は持ち合わせていない。しかし、曽野綾子の「覚」に相当するかどうかは別として、少なくとも「老いの覚悟」だけは持とうと覚悟している。85才の義父の姿を見てのことである。

 これまでに何度か義父のことを記した。義母を亡くして半年あまりになるが、義父は義母亡き後、福岡の長男のもとに引き取られた。長男はいずれこうなることを予測して、義母が亡くなる数年前に自分たち家族が住む分譲マンションの同じ棟の別の部屋を購入していた。現在はそこに義父を住まわせている。1Fに住む義父は3食毎に2Fの長男宅に行く。食事をしてひとしきり会話をした後に1Fに戻る、そんな毎日である。

 義父の1Fの部屋は元々両親で住まわせる予定だったので3LDKと十分に広く、そこの1室に義母の位牌がある。義父は義母亡き後しばらくは、何もしたくないと、ただただ部屋に引きこもり義母の位牌の前にひざまずく毎日であった。義母に何もしてやれなかったとの後悔の日々がしばらく続いた。

 しかし、周囲の手厚い配慮により少しずつ元気を取り戻してきた。マンションとはいえ1Fなので小さな庭があり、そこで趣味の畑をするようになった。やはり趣味の書道にも通うようになった。電動自転車を買い与えてもらい散歩も日課になったらしい。できるだけ短い間隔で法事を行い、みなが集っては義母の思い出話をする。たまには小旅行に連れ出すこともある。できるだけ寂しさを癒そうと、長男とその嫁、私の同居人である長女と次女が力を合わせている。

 義父は私の同居人である長女と次女に毎日のように電話をする。長男の所に世話になっているものの、やはり娘と話をしたいのだろう。しかし、話をはじめたら1時間や2時間はザラである。話は当然、くどい。こちらがお昼休みだろうが勤務中だろうがお構いなしにしてくる。「ちょっとお父さんゴメン、もうそろそろ買い物に行かないと」ということしばしばである。

 義父は当面、お金にも困っていない。教職員を長年続けてきたため、毎月、多額の年金が入る。長男は食事代を年金から差し引いているようだが、それでも家賃は要らない。日常、お金をほとんど使うことがないので、貯蓄残高がみるみるうちに増えているらしい。だからということではないが、例えば正月なんかに長男の息子(孫)に少額でもお年玉を渡しただろうかと心配するが、それもないらしい。ほとんど毎日、長男の息子(孫)とも顔を会わせているのだから、そういう機会にお小遣いでも渡せばよりよい関係になるのに、と傍で思う。義母がいたらその辺は如才なくやっていたであろうに。

 義父はいろいろな面で恵まれていると思う。長男のもとでプライバシーが保たれた至近距離に住み、食事の心配も要らない。お金にも不自由しない。娘とも時々会えて毎日会話できる。孫にも囲まれている。みなの暖かい配慮で見守られている。伴侶を失った悲しみは誰も同じであろうが、悲しんでいられないほどに生活の苦労がある人、子供との縁がない人、全く孤独な人など、伴侶をなくしたとはいえ、さまざまに苦労している人も多いであろうに。

 義父に対するこうした周囲の気遣いや配慮はこれからも継続されるであろう。異常な長電話にしても、これを厭うものではなく、少しでも義父の気持ちの励ましになればと思う。逆に、こうした気遣いや配慮によっても義父の寂しさが払拭されるものでないことは百も承知である。

 それを前提にした上で、我が身に置き換えてみる。ここからは私個人の問題である。私はいやしくも、こういう女々しい行動はとらない覚悟だ。そのとき私は、伴侶を亡くしたとはいえ思慮分別をわきまえた老人でありたい。周囲の慈しみや励ましがあれば、それをかたくなに拒むものではない。しかし、できるだけ周囲に迷惑をかけたくない。万一、娘や息子が近所に住んでやむなく世話になることがあっても、少しでも世話になることを避けたい。十二分に周囲に気使いもしよう。できることなら、世話になることなくひっそりと暮らしたい。その覚悟である。そのための心と体とお金の準備を今からしよう。私はそのとき、凛とした老人でありたい。
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No title

こんばんは♪

う~~ん、とっても素晴らしい本音の記事ですね。
感心して、何回も拝読させて頂きました。

まずは、お義父さまを非難してらっしゃらない点。
十分な優しさと思いやりを持ちながらの視点が素晴らしいです。

良く似てますね。姫の義父(100歳)も元教職員です。
義母を二年前に亡くしました。やはり昔の男子たるもの
「妻にしてもらうのが当たり前」「子にしてもらうのが当たり前」
なとこが見えますね~~時代というものでしょうか。
それともその人の考え方、生き方なんでしょうかね。

主人は一人っ子です(三歳の時に姉、弟を亡くしてます)
それもあってか、すごい「親孝行です」めっちゃ親孝行です(笑)
毎日、ホームに行きます(往復1時間以上掛かります)
主人が行けない時は、姫と長男が都合つけて行きます。
いっぱい役員やってるので、姫は行く回数が多くなります。

行く事は嫌ではないです。寂しいだろうし、行けば喜んでくれるし
でも、思います。矛盾しますが、「私はこんな風にはならない」って!
もう十分に生きたと思います。80歳過ぎたらね。子供には迷惑
掛けたくないです。金銭的にも精神的にもね。

主人の妻はもう「100歳じいちゃん」状態よん。あはは~~!!
信じられん・・・なんで毎日行かないとアカンの?って長男も言います。
主人は「寂しがるから」の一点張りですわ(爆)

ホームの方々も「こんな優しいご家族は見たことがない」って言われます。
そうだろうね。ほんまに姫も今まで見たことないよ(笑)
しかし、主人がそうしたいなら・・・じいちゃんがそうして貰いたいなら
そう思ってこの3年間(義母が倒れてから)やってきました。

最後にきよしさまのお言葉

 義父に対するこうした周囲の気遣いや配慮はこれからも継続されるであろう。
異常な長電話にしても、これを厭うものではなく、少しでも義父の気持ちの励ましになればと思う。
逆に、こうした気遣いや配慮によっても義父の寂しさが払拭されるものでないことは百も承知である。

 それを前提にした上で、我が身に置き換えてみる。ここからは私個人の問題である。私はいやしくも、こういう女々しい行動はとらない覚悟だ。そのとき私は、伴侶を亡くしたとはいえ思慮分別をわきまえた老人でありたい。周囲の慈しみや励ましがあれば、それをかたくなに拒むものではない。しかし、できるだけ周囲に迷惑をかけたくない。万一、娘や息子が近所に住んでやむなく世話になることがあっても、少しでも世話になることを避けたい。十二分に周囲に気使いもしよう。できることなら、世話になることなくひっそりと暮らしたい。その覚悟である。そのための心と体とお金の準備を今からしよう。私はそのとき、凛とした老人でありたい。

姫、全く同感、共感、(*бoб)//゛゛゛パチパチでございます。
姫の本音を言っちゃったわ。あはっ♪♪ありがと!!
すっきり致しましたわ。姫も凛として生きたいです。
そして長文になったことお許し下さいね。




Re: No title

姫どの 

同感、共感をいただき、
ありがとうでござる。

別途、ご連絡いたします。
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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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