父から娘へのメッセージ(その三)

 パレードの終盤あたりから陣痛が始まり、かかりつけの団地の産婦人科に緊急入院を余儀なくされた。うとうととした明け方、泣き声とともに出生が知らされた。が、その直後の看護婦の言葉が嬉しさを一瞬にかき消した。

「お子様は体重が1000グラム少しの超未熟児です.すぐに未熟児の施設に運びますが、十中八九 無理だと思いますので、その覚悟と準備をしておいて下さい.」と。その準備とは何を意味するのかくらい、若い私にも十分に理解できた。「奥さんにはとりあえず内緒にしておいて下さい」と産科医は念を押した。

 看護婦が運転する軽自動車の後部座席に、わが子を抱えて乗り込んだ。1000グラム少しの超未熟児は人間の態をなさず、まるで少し大きめの肉の塊を両手で大切に抱えるように、コロニー(未熟児施設)へと搬送した。

その時、わが子のことで動転していてコロニーでのことはあまり覚えていないが、あとで思い返すと、ギョとする。頭がドテカボチャみたいに大きな子供、手や足のない子、顔や体がゆがんだ子など、日本以外の子供もいた。その愛知県コロニーは、たまたま当時、アジアでも有数な施設であったのだ。そんな施設だからかどうかわからないが、ともかく患者(娘)の名前がないと入院も処置もできないと言う。

「そりゃ、七ヶ月で生まれる子供に名前がついていなくったって当たり前じゃないか」といきり巻くが、相手はとりあわない。仕方なく区役所に走った。区役所の所員に事情を話し、とにかく仮にでも出生証明が欲しいと言うが、らちがあかない。考えていた名の候補を二~三あげるが、今度は当用漢字にないから駄目だという。時間が命を切迫するさなか、こちらにしてみれば名前なんてどうでも良かった。それならと、「当用漢字表をもってこいっ!」、「これとこれとこれっ!」と三文字を指さし名前にした。
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