「すずめ」から「めじろ」へ





 鳥の話ではありません。「すずめ」とは、広島市民なら誰でも知っている中華そばのお店の屋号なのです。広島市内の平和大通りに近い天満川に面したところにある、目立たなくて小汚い小さなお店なのです。私が住んでいるところからだと車で30分はかかりますが、食べたいとふと思いつくと居ても立っても居られなく、自然に車が向いている、そんな感じのお店です。

 ここのラーメンは生粋の広島醤油豚骨ラーメンです。脂っぽくない醤油豚骨出汁に、麺は細めのストレート麺、具は多めの自家製チャーシューに茹でもやしと刻み青ネギとシナチク。いたってシンプルでオーソドックスなのです。





すずめラーメン



 博多の長浜ラーメンのような脂ぎった豚骨出汁でもなければ、名古屋のあっさりした薄口醤油出汁でもなく、東京のようなラーメン紛いの擬ラーメンでもありません。こくがあり、どんぶりを抱えて最後の一滴まで吸いたい出汁なのです。店には一応レンゲを置いていますが、レンゲを使う人や出汁を残す人は、よそ者だとジロリと睨まれます。

 よく東京なんかで、太いもやしとか、人参、玉ねぎ、煮玉子、ワカメ、ストかまぼこ、ほうれん草などが入ったラーメンを見かけますが、そういうのは邪道です。ラーメンはあくまでシンプルでなければなりません。出汁が主役でそれを引き立てる麺と具でなければなりません。

 私のラーメン談義はさておき、この「つばめ」は変わったお店です。戦後しばらくしてオープンした60年の創業だそうですが、その当時から開店は午後3時。限定400食、なくなり次第弊店し、午後5時には閉店のときもあります。スープに納得できなくてお店を開けない日もあります。メニューは中華そばと瓶ビールのみ。中に入ると整理券を受け取り、即座に一(杯)とか二(杯)とか注文をしてさっと席につかねければなりません。そのリズムが狂うと客に顰蹙を買います。広島人は全般にイラッチなのです。

 次から次に客が途絶えることなく行列ができるときもあります。天満川沿いに自家用車の他に、タクシーやトラックも違法駐車しますが、違反で捕まることはありません。どうもお店周辺は違法駐車特区のようです。



すずめ行列




  ところが、この「すずめ」が後継者の体調不良で今年4月末に閉店したのです。これまでも店舗拡大の話が幾たびかあったようですが、自分の眼の届かないところでの営業は味を守れないと頑なに断ったようです。昨年末から閉店話が噂され、常連客の中から店の味を絶やしてはいけないとの話が盛り上がり、ついに常連客の中から後継することになったそうです。最初、今のオーナーは頑固として首を横に振らなかったのですが、数ヶ月修行を積んで味に納得できたたら許可することになったそうです。そして今年2月から3ケ月間、修行を終えて無事オーナーの許可が下り、昨日、6月18日後継店がオープンしました。その名が「めじろ」です。

 たかが中華そば店の話ですが、味へのこだわり、後継することの難しさ、中華そばを通しての人間の営みなど、感慨深いものです。それというのも、中学生時代にラーメンの屋台を押しながら嫌というほど中華そばを味わった経験から、私には中華そばの味へのこだわりが人一倍あるからです。それに、味へのこだわりから店をよく閉店していた育ての親父の姿が「すずめ」の親父と重なったからでもあります。





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カレーライス







 カレーライスといえば今では誰もが好きな日常の食べ物だけど、昔は結構、高価な食べ物という印象があった。カタカナ名の舶来の食べ物という高級感もあったけど、なにせ肉が入っているから、そうそう庶民の口にできなかったわけだ。カレーライスが食べられるのは、誕生日とか特別な日であった。

 小学生の頃、近所の子とお誕生日会をやる風習があった。お誕生日の子のお宅にプレゼントを持って行って、お宅でご馳走になるというもの。そのご馳走の多くの場合がカレーライスであったように記憶している。私は、そのお誕生日会が来るのが怖かった。よそのお宅に呼ばれても自分のとこへ呼んでも、金策に苦慮している母親を困らせることになるからだ。

 よそのお宅に呼ばれても何か用事を作って行かなかったりもしたが、それでも母親は、私の誕生日にカレーライスを作って友だちを呼んでくれたことが1度だけある。うちのカレーライスを食べながら、友だちが「○○んちのカレーライスには肉が入ってない」「そういえばそうだ」なんて言った。そう、うちのカレーライスには肉の代わりにはんぺんが入っていたのだ。でも私にとっては、そのはんぺん入りのカレーライスがことのほか美味しかった。

 結婚直後、カレーに肉の代わりにはんぺんを入れてくれと頼んで呆れられた。今では肉入りは譲ったが、味は昔ながらの片栗粉を少し入れたとろりと甘いカレーを守っている。今風の辛いカレーは嫌いだし、スパイスや野菜などを加えた小汚いライスなど真っ平御免である。カレーのライスは真っ白なご飯に限る。汚れたライスに辛いルーは西洋かぶれだと勝手に思っている。

 ところで昔、ライスカレー&カレーライス論戦というのがあった。ご飯にかかって出てくるのがライスカレーで、別々に出てくるのがカレーライスだとか、どっちが正しい、どっちが間違いだとか。その決着を見ずに、今では何もなかったように普通にカレーライスになったような気がする。





ミシュランの怪


 フランスのタイヤメーカーであるミシュランがレストランやホテルなどを格付けした「ミシュランガイドブック」。その日本版として、東京、大阪、北海道に次いで4版目となる「ミシュランガイド広島2013特別版」が先週17日に刊行された。金曜日の夕方とあって広島市内の書店は長蛇の列をなし、広島市内繁華街の廣文館では当日だけで3500冊が売れたという。

 そもそも、こういう格付けにどれだけの重みと意味があるのか理解できない。だから、売り出しと同時にこぞってガイドブックを買う気持ちが知れない。それよりも、日本での4版目の刊行が名古屋でもなく福岡でもなく、なぜこの田舎の地方都市・広島なのか疑問である。宮島と平和公園の世界遺産を意識して、外国人観光客目当てなのか。それにしても、しょぼいこの広島をどのように格付けしようが知れたものだと思うが。

 さて、広島でのミシュランガイド刊行が決定して以降、地元ではどこが選ばれるかが巷の話題と噂になり、やがて予想順位の書き込みネット版なるものもできた。しかし、蓋を開けてみると全くの予想外であった。三ツ星は「なかしま」1軒のみ。一ツ星は「児玉」、「たこつぼ」、「葛(かずら)」の他、数軒と聞く。異口同音に、誰も入ったこともない聞いたこともない和食処だと酷評する。広島の人なら誰もが知る旨い名店はどこも入ってないらしい。それに不可解にも、一ツ星の「たこつぼ」と「葛(かずら)」は親子である。広島ならではの広島風お好み焼きは番外編に紹介されているというが、それも有名人気店はどこも選に漏れたそうな。

 格付けが公表されると、格付けされた店はどこも盛況という。事実、選ばれた店は当分の間、予約で一杯なそうな。しかし、店側は繁盛して糠喜びかというと、案外そうでもない。これまで地道に培った馴染みの客との関係が損なわれかねないからだ。

 ホテル、レストランに限らず、銀行や企業の格付け、国の格付けなど、なんでもかんでも格付けする風潮がある。果たして格付けする企業や団体は、どれだけ格付けすることの意義と社会的影響を認識し、社会的責任を負っているのか、大いに疑問である。さらに、信頼に足る格付けと言うなら、フェアに格付けした根拠を示すべきである。

 そもそも和食には侘びとさびがある。食材の多さと調理の多様性、隠し味を含めた繊細な味わい。器と食との美的感覚、それに板さんと客との合いの手。そのような和の心をミシュランが評価できるとはとても思えないのである。私は自分の目で確かめて実際に味わったものしか信じない。あ~、いきつけの店はなんて気さくで旨いことか。行きつけの店が私にとっての三ツ星である。




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団塊の世代を突っ走った田舎侍の遠吠えです。聞いてやってください。実話から世評までもろもろですが、一貫して、辛口です。

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